名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

タグ:短歌

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忘れ草 つみて帰らん 住吉の きしかたの世は
思ひ出もなし     
               平棟仲

(わすれぐさ つみてかえらん すみよしの きしかた
 のよは おもいでもなし)

意味・・住吉の岸辺に生えている忘れ草を摘んで帰ろう。
    自分の過去によい思い出があれば忘れにくかろ
    うが、過ぎ去った昔にはなんのよい思い出もな
    いのだから。

    忘れ草が欲しい事例。
    知人とのちよっとした感情の行き違いなど、忘
    れてしまいたい事が沢山あるがなかなか忘れら
     れない、忘れ草が欲しい・・。

 注・・忘れ草=ユリ科の萓草(かんぞう)の古名。恋や
     その他の苦しい思いを忘れる草といわれた。
    きしかた=「岸かた」と「来しかた」の掛詞。
     「来しかた」は過ぎ来し方の意で過去のこと。

作者・・平棟仲=たいらのむねなか。~1034。周防守・
    従五位上。
 
出典・・後拾遺和歌集・1067。


はかなしや 命も人の 言の葉も たのまれぬ世を
たのむわかれは       
                兼好法師
 
(はかなしや いのちもひとの ことのはも たのまれぬ
 よを たのむわかれは)

意味・・はかないものだ。人の命も人の言葉も当て
    にならないこの世なのに、別れに際しての、
    再開を期する言葉を頼みにすることとは。

    退職するような時で、もう人との交際も期
    待出来ず、一人ぽっちの寂しい思いになっ
    ている時に、再会の別れの言葉に期待した
    時のような気持ちを詠んでいます。

 注・・たのむ=頼む。たよりにする、期待する。

作者・・兼好法師=けんこうほうし。1283~1350。
    出家前の名は吉田兼好。当代和歌の四天王。
   「徒然草」を書く。
 
出典・・岩波文庫「兼好法師家集」。

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           舟を縄で川上に引き上げる引手

世の中は 常にもがもな 渚こぐ あまの小舟の
綱手かなしも      
                源実朝

(よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまの
 こぶねの つなでかなしも)

意味・・この世の中は、永遠に変らないでほしいもの
    だなあ。この渚を漕いでゆく漁師の、小舟に
    引き綱をつけて引くさまに、身にしみて心が
    動かされることだ。

    漁師が小舟を綱で引いている様子を、平和な
    世の中だと思い、波乱無く安泰にこのまま漁
    が出来ることを願う一方、自分の地位も脅か
    されることのないようにと、願った気持を詠
    んでいます。

 注・・常にもがもな=常に変らないであって欲しい
     なあ。「もがも」は実現することが難しい
     事柄について願望を表す。「な」は詠嘆の
     助詞。「常に」は永遠・不変を願うことで
     あり、この世を無常と思う気持ちがある。
    無常=全ての物が生滅変転してとどまらない
     こと。いつも変化していること。
    あま=海人。漁師。
    渚=波打ちぎわ。
    綱手=舟の先につけて、陸から舟を引くための
     引き綱。
    かなしも=「かなし」は愛しい、哀しいなどの
     意。「も」は詠嘆の助詞。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1219。
    28歳。鎌倉幕府の三代将軍。甥の公卿に鶴岡八
    幡宮で暗殺された。

出典・・金槐和歌集・572 、百人一首・93。

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手を折りて うち数ふれば 亡き人の 数へ難くも
なりにけるかな           
                  良寛

(てをおりて うちかぞうれば なきひとの かぞえ
 がたくも なりにけるかな)

意味・・手の指を折って数えてみると、亡くなった
    人の数が多くなって、数えることが出来な
    くなってしまったことだ。
 
    昔の職場のOB会に出ると、○○さんを知
    ってるやろう、亡くなったぞ・・。こんな
    話を 聞く事が多くなりました。
 
作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。
 
出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集」。
 

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消えとまる ほどやは経べき たまさかに 蓮の露の
かかるばかりを
                 源氏物語・紫の上
                  (若菜下の巻)
              
(きえとまる ほどやはふべき たまさかに はちすの
 つゆの かかるばかりを)

詞書・・病状がいくらか良くなったので、池の蓮の花を
    見ていると、露の玉を見つけたので詠んだ歌。

意味・・露が消えずに残っている間、私はこの世で過ご
    せるでしょうか。たまたま蓮の露がこのように
    置かれているのを見ると、そう思われてなりま
    せん。

    医学の発達していない当時は、病気に罹(かか)
    れば死に直結していたのでしょうか。病気に罹
    った不安を詠んでいます。

 注・・ほど=程。間、時分。
    やは=反語の意を表す。・・だろうか、いや
     ・・ではない。
    経(ふ)べき=時がたつ、過ごす。
    たまさかに=偶に。たまたま、時たま、万が一。
    かかる=掛かる。関係をもつ、つながりを持つ
     ようになる、寄り掛かる。
    ばかり=・・だけ、・・にすぎない。

出典・・風葉和歌集。

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