名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

タグ:俳句、川柳

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春の海終日のたりのたりかな      
                     蕪村

(はるのうみ ひねもすのたり のたりかな)

意味・・沖には春霞がたなびき、穏やかな空と海とが
    広がっている。碧(あお)い春の海は、一日中
    のたりたのりとのどかにうねっている。

 注・・終日(ひねもす)=一日中。

作者・・蕪村=1716~1783。南宗画の大家。「蕪村
     句集」他。

出典・・おうふう社「蕪村全句集」。 

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文もなく口上もなし粽五把  
                 服部嵐雪 

(ふみもなく こうじょうもなし ちまきごわ)

意味・・端午の節句に知人から粽を五把届けられて来
    た。使いの者は手紙も持たず、挨拶の言葉も
    なく、ただだまってそれを置いて帰った。

    嵐雪がこの句を読む半世紀ほど昔、貞徳が歌
    人の木下長嘯子(ちょうしょうし)に五把の粽
    を贈った。その時に添えたのが次の歌です。

かきや がわぬすま きなが ととひはせ
るはすぐせ    
                    貞徳

(近くの山にわび住まいしておられると聞いていましたが、
 訪ねもせず今年の春も暮れようとしています。)

    この歌は折句になっていて、各句の頭と句尾を拾ってゆく
    と、「ちまきこは(粽五把)」「まいらする」になります。

    長嘯子のお礼の歌です。

よふと だなおあか くべき のおとづれ
つほととぎ       
                    木下長嘯子

(千年たっても飽くこともなく聞きたいのは、ほとどぎすの
 初音、つまり、あなたからの便りです)

 この歌も「ちまきこは」と「もてはやす」の折句になって
 います。

    嵐雪の句はこんな気の利いた歌を添えるでもなく、
    粽だけ置いていったというものです。

 注・・口上=口でのべること。
    粽(ちまき)=端午の節句(5月5日)に食べる
      餅の一つ。葛粉などで作った餅を笹など
      で巻いて蒸したもの。
    五把=粽を五個束ねたものが一把、戦前まで
      は10個束ねたものが一把であった。
      粽五把は50個。
    まぐわぬ=美しくない。うるわしくない。
    ちよふ=千代経。千年の時が経つ。

作者・・服部嵐雪=はっとりらんせつ。1654~1707。
    芭蕉に師事。

出典・・小学館「近世俳句俳文集」。 

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春の野に心ある人の素顔かな
                 斯波園女

(はるののに こころあるひとの すがおかな)

意味・・春の野は春色をめでて野遊びをする人々で
    にぎわっている。女性は衣服を着飾り、顔
    にははなやかな化粧がほどこされている。
    その中に混じって何も飾らない素顔の人を
    見て、「心ある人」だなあと、その清楚な
    美しさに、かえって心がひかれることだ。

 注・・心ある=風雅の心や教養による品位をさし
     ている。

作者・・斯波園女=しばそのめ。1664~1726。
    1690年芭蕉に師事。

出典・・句集「広野」(小学館「近世俳句俳文集」)

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熟年の 入りて茄子漬 上手くなる  
                    
(じゅくねんの はいりてなすずけ うまくなる)

意味・・美味い漬物は、永年の試行錯誤の経験や工夫 
    の賜物。若くなくなり年を感じさせられるこの頃 
    だが、年の功で漬物を漬けるのが上手くなったと 
    自分ながら感じる。いや、漬物だけでなく料理や 
    お付き合い、その他諸々のことも。


ぼたん切って 気のおとろひし ゆふべかな  
                       蕪村

(ぼたんきって きのおとろいし ゆうべかな)

意味・・花の王といわれる牡丹が美しく咲いた。活け花に
    して楽しもうか、切らずにこのままで楽しもうか
    と、あれこれと考えたあげく活け花にすることに
    した。蕪村流といえるような活け花に仕上げ終えた。
    その後は緊張感が一気に萎(な)えてしまった。

    高浜虚子の「十五代将軍」という小説の中で徳川
    慶喜(よしのぶ)に呼ばれて俳句を講じている時、
    この句を言うとすごく感銘したという。徳川三百
    年の大政を奉還した時の気持が「気のおとろえし」
    だったのです。

作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。

出典・・おうふう社「蕪村全句集」。

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