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東海の 小島の磯の 白砂に われ泣きぬれて
蟹とたわむる
              石川啄木

(とうかいの こじまのいその しらすなに われ
 なきぬれて かにとたわむる)

意味・・東海の小島の磯のあたり、後から後からと
    寄せては返す波うち際の、白々とした砂の
    上に、自分は涙に泣きぬれて、可憐な小蟹
    と遊び戯れている。

    文学で身を立てようとする啄木であるが、
    まだそれで生活が出来るには程遠い。
    希望がゆらぎ心ではいつも泣いている。
    東海の白砂で蟹の横ばいを見て、人と違っ
    た生き方をしても許されるのではないかと
    希望をつなぐ。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。
     26歳。盛岡尋常中学校中退。与謝野夫妻
     に師事するために上京。

出典・・一握の砂。