見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の
錦なりけり
                 紀貫之
                
(みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみじは
 よるの にしきなりけり)

意味・・はやす人もいないままに散ってしまう山深い
    紅葉は、まったく夜の錦である。

    この奥山の紅葉は誰にも見てもらえないで、
    自然に散ってしまうが、それは人にたとえ
    れば、都で立身出世したにもかかわらず、い
    っこうに故郷に帰って人々に知らせないよう
    なもので、はなはだ物足りない。

 注・・夜の錦=「史記」の「富貴にして故郷に帰ら
     ざるは錦を着て夜行くが如し」を紅葉を惜
     しむ意に転じる。
     (いくら立身出世しても、故郷に帰って人々
     に知ってもらわなければ、人の目に見えな
     い夜の闇の中を錦を着て歩くようなもので
     つまらない)

作者・・紀貫之=きのつらゆき。866~945。土佐守・
    従五位。「古今集」の中心的撰者。「土佐日
    記」の作者。
 
出典・・古今和歌集・297。