水の上に かづ書くよりも はかなきは おのが心を
頼むなりけり          
                   良寛

(みずのえに かずかくよりも はかなきは おのが
 こころに たのむなりけり)

意味・・水の上に数を書くことよりもはかないのは、
    自分の心をあてにすることである。

    自分の心を当てにするということの一例とし
    ては、相手の気持ちが自分の思うように変わ
    って欲しい、と思うなど。

    参考歌です。 
   「ゆく水に数書くよりもはかなきは思はぬ人を
    思ふなりけり」   (意味は下記参照)。

 注・・はかなき=儚き。頼みにならない。かりそめ
     のことである。
    頼む=あてにする、期待する。

作者・・良寛=1758~1831。新潟県出雲町
     に左門泰雄の長子として生まれる。幼名
     は栄蔵。
 
出典・・谷川敏朗著「良寛全歌集」。

参考歌です。
ゆく水に 数書くよりも はかなきは おもはぬ人を
思ふなりけり 
                  在原業平
 
(ゆくみずに かずかくよりも はかなきは おもわぬ
 ひとを おもうなりけり)

意味・・流れる水に数を書いてもはかなく消えるもので
    ある。それよりももっとはかないのは、思って
    くれない人を思うということである。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。
    従四位・美濃守。

出典・・伊勢物語・50段。
 
感想・・水に筆で数を書いてもすぐに消える。頼りの
    ないことの例えです。
 
    日常生活であることだが、自分は相手より上
    だ、相手より強いのだ、相手に貸があるのだ
    といような潜在意識があるものです。
    それで自分が言ったことを聞きとげて欲しい
    と相手に対して思うものです。
    ところが相手は聞いてくれずに反発してくる。
    そこで喧嘩になる。
    どちらも自分が正しいと思っているので譲ら
    ない。仲が悪くなったままになる。
 
    良寛は相手が自分の思うままになる、という
    ことは水に字をかくようなもの、当てにして
    駄目だと言っている。
 
    家内に無理を言って来たような気がしてくる。