消えぬまの 身をも知る知る あさがほの 露とあらそふ
世を嘆くかな           
                    紫式部

(きえぬまの みをもしるしる あさがおの つゆと
 あらそう よをなげくかな)

意味・・朝顔はまたたくまにしぼんでしまう。それは
    知っています。それを知りながら、露と長生
    きを争っているようなもので、世の中のはか
    なさを思わずにいられない私なのです。

    顔の美しさを誇りにしていた友人が、疱瘡に
    かかり、顔にみにくい痘痕(あばた)が残り、
    生きる気力を無くしたので励ますために贈っ
    た歌です。
    人間は、しょせん短い命なので、争わず(恥を
    気にせずに)自分なりに力一杯生き抜いて欲し
    いという気持の歌です。
 
作者・・紫式部=むらさきしきぶ。生没年未詳。990年頃
    活躍した人。「源氏物語」。「紫式部日記」。
 
出典・・ライザーダルビー著・岡田好恵訳「紫式部物語」。
 
感想・・「不幸」についての考え方の一つ、二つです。
    五木寛之のエッセイ「遊行(ゆぎょう)の門」より。
    「地獄のような時代では、人は生きているだけで
    価値がある」
 
    疱瘡になって、親は助からないと思っていた命だが
    それが助かった、助かって良かったと思うはずです。
    ところが、若い女性としてはこんな醜い顔になるの
    なら、いっそう死んでしまった方が良かったと思い
    ます。将来の希望が無くなったからです。
    親は地獄と比較して今の方が良いと思い、娘は極楽
    と比較するので、もうだめだと悲しむ。
    娘は親の気持ちになれれば良いがそれは出来ない。

    この娘を励ましたのが紫式部です。
    所詮人生は短いもの、不幸に思っても幸福に思って
    いてもあっという間の人生。不幸を気にしていても
    すぐに終わる人生です。不幸を気にせず、痘痕(あば
    た)も恥ずかしがらずに、今を一生懸命生きて欲しい
    と慰めています。
 
    また、小説家の童門冬二は、次のように言って慰めて
    います。
     童門冬二の小説「山本常朝」より。
    「人間の生き方には二通りあると思う。
     つまり、自分が経験した不幸を、その後の生き
     方にどう活用するかということだ。
     ひとつは、自分の不幸を世の中への対抗要件に
     して、仕返しをしてやろうとか、報復してやろ
     うと思う生き方だ。しかしこれは自分の不幸の
     活用ではない、悪用だ。つまりその動機はすべ
     て私心だからだ。私欲だ。自分がこれだけ不幸
     な体験をしたのだから、世の中のあらゆる人間
     にも不幸をばらまき、汚染させてやろうという
     考えだ。これは間違っている。
     反対にもうひとつの生き方は、自分の不幸をバ
     ネにして、正しく生きようと努力することだ。
     そして、自分が体験した不幸は絶対に他人に味
     わせてはならない。そのために自分は自分の不
     幸を押し隠して、あくまでもそれを忍び、耐え、
     世の中の人を喜ばせようとだけ 考えることだ。
     これは自分の不幸を活用している事になる。」

 
    不幸の対抗要件としての仕返しとは、将来に希
    望を無くして生きる生き方です。
      痘痕が残っていても明るく生きていれば、周辺
    の人々も気持ちよく思います。
    反対に痘痕を気にして生きる気力を無くしてい
    ると周辺の人は暗くなります。結果的に自分の
    不幸の仕返しとして周辺に報復した生き方にな
    ってしまいます。
    この不幸を、自分だけに終わらせて、他人には
    味わせたくないと考えることだと言っています。
    でもこのことは本人が明るくなれないと出来る
    考えではありません。
 
    明るく考えるには。
    交通事故に会って腕とか足を失った事を考える
    と大変な不幸です。事故に会った本人としは、
    足や腕を無くす代わりに痘痕が残っている方が
    いいと思うかもしれません。
    この事故に会った人は生きる気力を無くしてし
    まうでしょうか。
    交通事故に会えばそれなりの保険金が入ります。
    そして、事故の苦しみを和らげてくれると思い
    ます。
    痘痕が残っても生命保険に入っていればやはり
    保険金が入ります。
    保険金が入れば苦悩も半減するのではないかと
    思います。
    どんな状況におかれても考えようで苦痛も少な
    くなる思います。
    明るく振舞って、自分の不幸を他人には味わせ
    たく無いと考えられれば素晴らしいと思います。