月をこそ ながめなれしか 星の夜の 深きあはれを
こよひ知りぬる
                建礼門院右京大夫

(つきをこそ ながめなれしか ほしのよの ふかき
 あわれを こよいしりぬ)

意味・・いつも月ばかり眺め慣れていたのだが、星の
    夜の深い情趣を、今宵はじめて知ったことで
    ある。
   
    平清盛の娘建礼門院に仕えた作者は、平資盛
    (すけもり)と恋愛関係にあり、1185年に資盛
    は源平の戦いで戦死にあう。その翌年に詠ん
    だ歌です。
    夜空を見上げると、薄青色に晴れて大きな星
    がきらきらと一面に輝いていた。まるで薄い
    藍色の紙に箔を散らしたように見え、こん
    星空は初めて見たように思った、という詞書
    があります。
    月に比べれば、星の輝きは物の数ではない。
    満ち足りた月の美しさのような生活から転落
    した作者が、天空に広がって光り輝く星の美
    しさの世界を発見した歌です。

作者・・建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうきょ
    うのだいぶ。生没年未詳。1157年頃の生まれ。
    平清盛の娘の建礼門院の女房。

出典・・玉葉和歌集・2159。 
 
感想・・平家の時代の栄華な生活は出来なくり、寂しい
    が貧しいながらそれなりの良さを見つけている
    今。それは美しい月夜ばかりでなく、星空も美
    しいものだと分かったような今であるが、やは
    り恋人と共に見た月夜が懐かしい・・。
 
    月を見て亡くなった人を思い孤独感を詠んだ漢
    詩、参考です。
 
    江楼にて感を書す 
 
    独り江楼に上れば 思渺然(おもいびようぜん)
    月光水のごとく 水 天に連なる
    同(とも)に来って月を翫(もてあそ)びし人は何
    処(いずこ)ぞ
    風景依稀(いき)として去年に似たり
 
    ただ一人、江辺の楼に登れば、思いは果てもな
    く広がる。
    月光は水のように澄みわたり、水は天に連なっ
    て流れている。
    ともに来て月を見て楽しんだ人は、今はどこに
    行ったのか。
    風景だけはそっくり去年のままに見えるのに。
 
 注・・江楼=川辺りの高殿。
    渺然(びようぜん)=遥かなさま、はてしない事。
    依稀(いき)=彷彿たること、よく似ているさま。