死はそこに 抗ひがたく 立つゆえに 生きている一日
一日はいづみ
                  上田三四二

(しはそこに あらがいがたく たつゆえに いきて
 いるひとひ ひとひはいずみ)

意味・・病状を癌と知った時、死はすぐ目の前に避け
    がたく立ちふさがり、病気の厳しさを否応な
    く見据えねばならない。不安にうちひしがれ
    てしまいそうな日々。でも、だからこそ、生
    きている一日一日が宝物なのだ。

    43歳の時、病気が結腸癌だと分った時に詠ん
    だ歌です。死ぬまで残り少ない日々。この残
    された時間の一刻一刻は、「刻(とき)はいま
    黄金(きん)の重み」と意識し、こんこんと湧
    き出て来る生命の泉、として詠んでいます。

 注・・いづみ=泉。地中から湧き出る水。みなもと。
     黄金のように価値がある一刻一刻、それが
     湧き出る命の泉として捉えている。

作者・・上田三四二=うえだみよじ。1923~1989。
    京大医学部卒。医学博士。

出典・・歌集「湧井」(栗木京子著「短歌を楽しむ」)
 
感想・・癌は早期発見出来れば、手術を施してかなりの
    確率で治るようになった。でも発見が遅れると
    治らない。癌と診断されたら不安にひしがれて
    しまうものです。

    上田三四二は癌と宣告されて逆に残された命は
    宝物だと捉えて、やり残した事、しなければな
    い仕事を見つめ、それに熱中して充実した日々
    を送るようになった。
    結果的に不動明王が燃えているように、みなぎ
    る力が湧き出して病気も癌も焼き尽くしてしま
    った。

    自分のしなければいけない仕事、自分がやりた
    い仕事は何だろうか。
    例えば三浦雄一郎は80歳でエベレストを登頂し
    た。このように何か生き甲斐をもってする事は
    全力を注げることであり、みなぎる力が湧き出
    る薬だと思った。