かたはらに 秋ぐさの花 かたるらく ほろびしものは
なつかしきかな     
                  若山牧水

(かたわらに あきぐさのはな かたるらく ほろびし
 ものは なつかしきかな)

詞書・・小諸懐古園にて

意味・・廃墟となった小諸城址に、むなしく座っている
    と、かたわらで秋草の花が語ることに「亡んだ
    ものを想うとしみじみしますね。」。

    牧水が恋愛にも生活にも疲れ果て、小諸の地に
    静養している時に詠んだ歌です。

    悠久(ゆうきゅう)な自然の中に滅び去ったもの
    を思い、懐かしく思う気持を詠んだ歌です。
    「荒城の月」を口すさびながら。

    春高楼の花の宴
    巡る盃 かげさして
    千代の松が枝 わけ出でし
    昔の光 いまいずこ

    島崎藤村の詩「千曲川旅情の歌」、参考です。

     「千曲川旅情の歌 」   島 崎  藤 村

     昨日またかくてありけり
     今日もまたかくてありなむ
     この命なにを齷齪(あくせく)
     明日をのみ思ひわづらふ

     いくたびか榮枯の夢の
     消え殘る谷に下りて
     河波のいざよふ見れば
     砂まじり水巻き歸る

     嗚呼古城なにをか語り
     岸の波なにをか答ふ
     過(いに)し世を靜かに思へ
     百年(もゝとせ)もきのふのごとし
 

    古城のほとりで、藤村も牧水も哀しむ。
    過(いに)し世を思えば春高楼の花の
    宴も、栄枯盛衰も消え失せて、百年も
    昨日の如しと。
    あくせく明日を思い患っても、月日は
    なにもかも「ほろぼし」去って行く。
        ほろびしものは懐かしきかな。
 
 注・・かたはらに=作者が座って瞑想にふけっている
     近くでの意。
    かたるらく=語ることには。
    なつかしき=過去の記憶に心ひかれしたわしい。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    43歳。早稲田大学卒業。歌集に「路上」、「
    海の声」など。

出典・・歌集「路上」。