見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の
秋の夕暮れ
                 藤原定家
           
(みわたせば はなももみじも なかりけり うらの
 とまやの あきのゆうぐれ)

意味・・見渡すと、色美しい春の花や秋の紅葉もない
    ことだなあ。この海辺の苫葺き小屋のあたり
    の秋の夕暮れは。

    春秋の花や紅葉の華やかさも素晴らしいが、
    寂しさを感じさせるこの景色もまた良いもの
    だ。

    この歌は、後に「さび」「わび」と結びついて
    賞賛されています。三夕(さんせき)の一つです。

 注・・浦=海辺の入江。
      苫屋(とまや)=菅(すげ)や茅(かや)で編んだ
     むしろで葺(ふ)いた小屋。漁師の仮小屋。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~1241。
    新古今集の撰者。

出典・・新古今和歌集・363。
 
感想・・この歌は少し高い丘から海辺を眺めているの
    だろうか。
    周りを見ると草木も枯れて何の精彩もない。
    海辺を見わたすと、砂丘に波が寄せては引い
    ての繰り返し。そこには漁師の物小屋がぽつ
    りとあるだけで人の気配もない。
    ああ寂しい景色だなあ。
    ふと思い出す。少し前はこの辺りは紅葉が真
    っ赤に燃えて美しかった。春は桜の満開が目
    に浮かぶ。夏は漁師が景気よく網を引き揚げ
    ていた。
    思うと寂しい景色になったものだ。この秋の
    夕暮れは。