百伝ふ 盤余の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや 
雲隠りなむ
               大津皇子

(ももづとう いわれのいけに なくかもを きょう
 のみみてや くもかくりなん)

意味・・この盤余の池に鳴く鴨を今日限りに見て、
    私は死んでしまうのであろうか。
    いつも変わらず平々凡々と泳いでいる鴨が
    ああ、羨ましい。

    自己の死を凝視(ぎょうし)して詠んだ辞世
    の歌です。大津皇子は草壁皇子に対して謀
    反の心があるとして殺された。

 注・・百伝ふ=盤余の枕詞。無限に続く意を表し
     第四、五句のはかなさに対比させる。
    盤余(いわれ)=奈良県磯城郡盤余。
    雲隠り=昇天して雲の中に隠れる。貴人が
     死ぬこと。

作者・・大津皇子=おおつのみこ。663~686。23歳。
    草壁皇子への謀反の罪で処刑された。

出典・・万葉集・・416。
 
感想・・大津皇子は、波紋を作って気持ちよく泳いで
    いる鴨が羨ましと思ったことでしょう。鴨の
    ように何の気兼ねもなく過ごせた立場に戻っ
    て欲しい!
 
    山頭火の歌を思い出しました。
 
    今日も事なし凩に酒量るのみ
                      山頭火

    今日も何事も無かったなあと、木枯らしの音を
    聞きながら、静かに酒を量っている。

    なんとなく不満であり、充足しない気分の今日
    この頃である。何かいい事が無いかなあ、胸が
    ときめくような事が無いかなあと期待しつつ、
    今日も普通の日と変わらずに過ぎた。寒い木枯
    らしが吹く中、細々と酒を量って売っている、
    平々凡々の一日であった。

    ありふれた何でも無い様な状態が、実は、いか
    に「幸福」な状態かを詠んだ句です。    
    ある日突然の、大きな病気や怪我・仕事の失敗・
    リストラ・地震や火事・・、この様な不幸事を
    経験すると、平々凡々と過ごせたあの頃に戻っ
    てほしい・・。

    (酒量る=この歌の時期は、酒造業を営んでいた
     ので、酒を量って売るの意)
 
   今日一日を無事に過ごせた事を感謝すべきだと思い
   ました。