沈黙の われに見よとぞ 百房の 黒き葡萄に

雨ふりそそぐ
                斉藤茂吉 

(ちんもくの われにみよとぞ ももふさの くろき
 ぶどうに あめふりそそぐ)

意味・・悔しくても一言も発する事が出来ない状態で
    いる自分に向かって、「見よ」といわんばか
    りに、ぶどうの房が沢山ぶどう棚に垂れ下が
    っている。そのぶどうには、秋の雨がもの寂
    しく降りそそいでいる。
    
    沈黙せねばならぬ状態とは、例えば、
    仕事の不満や上司への愚痴を口に出したいが
    我慢をして口に出さない。
    また、仕事に失敗した時に言い訳をしない。

    この様に沈黙する時には言いたい事や叫びた
    い事が一杯あるのに、じっと我慢していなけ
    ればいけない。ぶどうを見るがいい、彼らも
    実にどっしりと垂れ下がって、雨に耐えて「
    沈黙」しているではないか。
    
 注・・沈黙=言いたい事があっても黙っている、言
     い訳をしない。悔しくとも沈黙する心情。
    黒き葡萄=黒く色づいたぶどう。一首全体に
     流れる重苦しい心情を表す。

作者・・斉藤茂吉=さいとうもきち。1882~1953。東
     京大学医科卒。伊藤左千夫に師事。文化勲
     章を受ける。「小園」。


出典・・歌集「小園」(笠間書院「和歌の解釈と鑑賞辞典」)

感想・・「沈黙」とは心に刺さっている刺を胸に収めて
    いることだろうか。
    この場合は早く刺を除きたいものです。

    言いたい事が言えないので沈黙する。辛い気持
    を誰かに知ってもらいたいと思うものの聞いて
    もらえる人がいない。

    ふと昔を思い出しました。

    車の社会になる以前、週48時間労働制のあった
    時代、この時はみんな定時退社をしていた。
    門を出るとそこには酒屋があり、角打ちをして
    いたものです。
    何人か集まると腰を下ろして飲む。酒のつまみ
    に世間話をする。上司の悪口も出る。酒が入っ
    ているので口に蓋がされない。恥も外聞もなく
    何でも話す。悩み事も聞いてもらえた。聞いて
    もらっても病気が治る分けでもなし借金が減る
    分けでもないが、同情されただけで解決したよ
    うな気持ちになったものです。
    
    今はこのような雰囲気がないので、辛いことを
    聞いてもらえる人がいない。

    今思った事ですが、辛いことを胸に収める立場
    になったら、神社やお寺参りをしようと思う。
    「今こうこうした事で悩んでいます。お力をお
    貸ください」と。こうこうした事は詳しいほど
    よい。これを声を出して願い事をする。一回だ
    けでなく、10回いや100回続けたいと思う。