海ならず 湛へる水の 底までに 清き心は
月ぞ照らさん     
                菅原道真

(うみならず たたえるみずの そこまでに きよき
 こころは つきぞてらさん)

意味・・海どころでなく、さらに深く満ちている
    水の底までも清いというほどに清い私の
    心は、天の月が照らして、明らかに見て
    くれるだろう。

    菅原道真は右大臣の時に讒言(ざんげん)
    により大宰府に配流されて詠んだ歌です。
    心の奥底までの潔白さが誰にも見て貰え
    ない嘆きを、天に恥じない自負の高揚に
    転じて、自らを慰めたものです。

 注・・讒言=事実をまげ人を悪く言うこと。
    海ならず=海どころでなく。
    湛(たた)へる=満ちる、充満する。

作者・・菅原道真=すがわらのみちざね。903年没、
    59歳。従二位右大臣。当代随一の漢学者。

出典・・新古今和歌集・1699。

感想・・菅原道真が自分の潔白さを詠んだ歌ですが、
    弱肉強食の時代にこの歌が取り上げられた
    のに感心します。
    利害関係で対立する相手を再起不能にする
    のが正義であった時代です。
    民主主義の今の時代と違い、士農工商に代表
    される封建的社会です。
    自由と平等の無かった時代です。
    自由の反対は不自由であり、拘束であり、繋
    縛(けいばく)であり、圧力であり、階級差の
    釘付けであり、時には迫害である。
    また平等の反対は不平等であり、差別であり、
    劣視であり、排他である。それらは世の中を
    歪んだものにし、暗いものとし、時には絶望
    に追い込むものですらある。
    古今集が出来たのは1205年。この当時は平家
    が滅び源氏が滅びた中世の暗黒の時代。不自由
    と不平等の典型的な時代であった。

    新古今の撰者は菅原道真の歌に自由と平等を夢
    見たのだろうか。