塩之入の 坂は名のみに なりにけり 行く人しぬべ
よろづ世までに         
                  良寛

(しおのりの さかはなのみに なりにけり ゆくひと
 しぬべ よろづよまで)

意味・・塩之入峠が険しいというのは、うわさだけに
    なったものだ。その坂道を行く人は、通りや
    すいように作り直してくれた方のことを、い
    つまでも有難く思い顧みなさい。

      塩乃入の坂は、まことに恐ろしい坂で、上を
    見ると目もとどかず、下を見ると肝が縮こま
    るような坂なので、千里を行く馬も進みかね
    たという坂道。このような危しい道を歩きや
    すい道に作り変えた先任者に感謝の気持ちを
    詠んでいます。

 注・・塩之入(しおのり)の坂=新潟県与板町と和島
     村の境にある峠。「親知らず子知らず」の
     絶壁を思わせる険しい坂道であった。
    しぬべ=偲べ。「しのべ」と同じ。思いしたう。

作者・・良寛=1758~1831。

出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集・1066」。

感想・・菊池寛の「恩讐の彼方に」が思いだされます。
    大分県耶馬溪の青の洞門の話です。
    1年の間に何人もの人が墜落して死んでいると
    いう難路。僧禅海は敵討ちに狙われている人。
    禅海は罪滅ぼしのために、この難所にトンネル
    を掘る決心をする。数十年の歳月を要してトン
    ネルが開通した。
    トンネルが出来上がった現在は何の苦労もなく
    通行できます。でも、ここを通る時はトンネル
    を掘った人の苦労を思い浮かべたいものです。

    現在の社会保険制度にも当てはめられます。
    昔は、大黒柱の主人が大病を患ったら一家は
    苦難のどん底に落ち込みました。
    現在は健康保険制度・生活保護制度・年金保険
    制度などがあり多くの人が恩恵を被っています。

    難所の道を通りやすくして呉れた昔の人に感謝
    をする。そして現在の困難を解決して次世代に
    残してゆく、この大切さを思います。