名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2021年02月

水鳥を 水の上とや よそに見む 我もうきたる 
世をすぐしつつ          
                紫式部

(みずとりを みずのうえとや よそにみん われも
 うきたる よをすぐしつつ)

意味・・水鳥は何の思い患うこともなく泳ぎ廻っている
    のだと、よそごとのように見ていられるだろう
    か。私だとて水に浮く鳥同様、華やかに浮いた
    宮中の生活を営みながら、水面下の水鳥のあが
    きのように憂き日々を送っている身なのだ。

 注・・よそ=余所、関係のないさま。
    うき=憂き、つらいこと。まわりの状況が思う
     にまかせず、気持がふさいでいやになるさま。
    「浮き」を掛ける。

作者・・紫式部=970頃~ 1016頃。藤原道長の娘・中宮
    彰子に仕えた。

出典・・千載和歌集・430。

207


色も香も 昔の濃さに 匂へども 植へけむ人の
影ぞへ恋しき
                紀貫之

(いろもかも むかしのこさに におえども うえけん
 ひとの かげぞこいしき)

詞書・・主人が死んだ家の梅の花を見て詠んだ歌。

意味・・梅の花は、色も香りも、主人が生きていた時と
    同じように、濃く美しく咲いているが、この梅
    の木を植えた人の面影が恋しく思われることだ。

作者・・紀貫之=946年没。古今和歌集の撰者。

出典・・古今和歌集・851。


心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の
秋の夕暮れ           
                  西行
            
(こころなき みにもあわれは しられけり しぎたつ
 さわの あきのゆうぐれ)

意味・・ものの情趣を解さない私のような者にも、
    この情景の趣き深さがしみじみと知られ
    ることだ。鴫の飛び立って行く秋の沢の
    夕暮れよ。

    下の句の絵画的美しさに感動して詠んだ
    歌です。三夕の歌のひとつ。

注・・心なき=情趣を解さない、教養がない。
   あはれ=しみじみとした趣。深い感慨。
   鴫(しぎ)=シギ科の鳥。長いくちばし・
    足を持ち飛ぶ力が強い。水辺に住み
    小魚を食べる。

作者・・西行=1118~1190。

出典・・新古今和歌集・362。


見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の
秋の夕暮れ
                 藤原定家
           
(みわたせば はなももみじも なかりけり うらの
 とまやの あきのゆうぐれ)

 
意味・・見渡すと、色美しい春の花や秋の紅葉もない
    ことだなあ。この海辺の苫葺き小屋のあたり
    の秋の夕暮れは。

    春秋の花や紅葉の華やかさも素晴らしいが、
    寂しさを感じさせるこの景色もまた良いもの
    だ。

    この歌は、後に「さび」「わび」と結びついて
    賞賛されています。三夕(さんせき)の一つです。

 注・・浦=海辺の入江。
    苫屋(とまや)=菅(すげ)や茅(かや)で編んだ
    むしろで葺(ふ)いた小屋。漁師の仮小屋。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~1241。
    新古今集の撰者。

出典・・新古今和歌集・363。

1266


ふくる夜の 川音ながら 山城の 美豆野の里に
すめる月かげ      
                頓阿法師

(ふくるよの かわおとながら やましろの みずのの
 さとに すめるつきかげ) 

意味・・更けていく夜に澄んだ川音を伴いつつ、
    山城の美豆野の里に月の光が澄み渡って
    いる。

    月明かりの静かな夜中、心も安らいでく
    ると川のせせらぎが心地よく聞こえてく
    る状況です。

 注・・ながら=(名詞に付いて)それが持っている
     本質に従って、の意を表す。
    山城=旧国名。今の京都府の中部と南部。
    美豆野(みずの)=山城国の枕言葉。京都市
     伏見区美豆町の近辺。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。
    「新拾遺集」の撰者。

出典・・岩波書店「中世和歌集・室町篇」。 


このページのトップヘ