名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2020年04月

1251
                      苧環


しづやしづ しづの苧環 くり返し 昔を今に 
なすよしもがな
               静御前

(しずやしず しずのおだまき くりかえし むかしを
 いまに なすよしもがな)

意味・・倭文(しず)の布を織る麻糸を丸く巻いた苧環
    (おだまき)から、糸が繰り出されるように、
    再び繰り返えして、昔の二人の仲を今に繰り
    返す方法はないものかなあ。

    義経を慕っている静御前が、頼朝の前で舞曲
    を奉じる時に吟じたものです。    

    義経が頼朝に追われているが、追われる前の
    良き時代に今をする事が出来たならなあ、と
    いう気持を詠んだ歌です。

 注・・しづ(倭文)の苧環(おだまき)=倭文は古代の
     織物の名、苧環は織物を織る糸を巻き取る
     道具、くるくると繰り返し巻き取る。


作者・・静御前=しずかごぜん。生没年未詳。鎌倉時
    代初期の白拍子。源義経の妾。

出典・・義経記。

 


1252


心にも あらで憂き世に ながらへば 恋しかるべき
夜 半の月かな       
                  三条院
        
(こころにも あらでうきよに ながらえば こいし
 かるべき よわのつきかな)

詞書・・病気になって帝位を去ろうと思っている
    時分、明るい月を見て詠んだ歌。

意味・・心ならずも、この辛い世の中に生き長ら
    えていたならば、今、この宮中で眺める
    夜半の月も、恋しく思い出されるに違い
    ないだろうなあ。

    病気などの理由で、不本意ながらに退職
    する時の気持ちであり、退職した収入の
    ない将来の絶望的立場より今の時点を振
    り返って見ると、病気をしていても仕事
    をしている今が、不遇でも恋しくなるだ
    ろうなあ、という気持ちを詠んでいます。

 注・・心にもあらで=自分の本意ではなく。早
     く死んだほうがましだという気持ち。
    憂き世=生きるのにつらい世。
    ながらへば=生きながらているならば。

作者・・三条院=さんじょういん。976~1017。

    三条天皇は眼病に苦しみ、藤原道長に退
    位を画策され帝位を去る。

出典・・後拾遺和歌集・860、百人一首・68。


寂しさに 秋成が書 読みさして 庭に出でたり
白菊の花      
                北原白秋

(さびしさに しゅうせいがふみ よみさして にわに
 いでたり しらぎくのはな)

意味・・雨月物語を読んでいて、あまりに心悲しく
    なったので、途中で置いて庭に出た。そこ
    にはその悲しさを誘った純愛の心をそのまま
    表したような白い菊が咲いていた。
 
    秋成が書は雨月物語の「菊花の契」を指して
    います。
    あらすじは、丈部左門という武士が、道中病
    気で困っていた赤穴宗右衛門を助け、それに
    より兄弟の契を結んだ。宗右衛門が去るにあ
    たって、菊花かおる重陽の日(9月9日)には
    必ず訪ねてくると再会を約束して去ったがま
    もなく捕らわれの身となる。逃れられないの
    で自殺して亡霊となり、約束の日の夜更けよ
    うやく左門の所へ訪ねて来たという話です。

    「寂しさ」は人情の哀れさへの感動です。
    
 注・・秋成=上田秋成(1734~1809)。雨月物語等。
    秋成が書=雨月物語。

作者・・北原白秋=きたはらはくしゅう。1885~1942。
    城ヶ島の雨、ペチカ、からたちの花、等を書い
    た詩人。

1255


おとにきき めにみいりよき 出来秋は たみもゆたかに
いちがさかえた       
                   四方赤良

とにきき にみいりよき きあきは みも
 ゆたかに ちがさかえた)

詞書・・「おめでたい」という五文字を句の上に置いて、
    農業の心を詠めと人が言ったので。

意味・・うわさに聞いていたが、じっさい目に見ても、
    実りのよい秋である。民の暮らしも豊かで、
    市も栄えてまことにめでたいことだ。

    ある言葉を各句の上に一字ずつ置いた形を折句
    といっています。

 注・・みいり=「見入り」と「実入り」を掛ける。
    出来秋=秋の稲のよく実った頃。
    いちがさかえた=市が栄えた。昔話・おとぎ話
     などの末尾に用いる決まり文句。めでたし、
     めでたし。

作者・・四方赤良=よものあから。1749~1823。黄表
    紙・洒落本・滑稽本・狂歌などで江戸時代活躍
    した。

出典・・狂歌「万載」(小学館「狂歌」)


何事も 変わりのみ行く 世の中に 同じ影にて 
すめる月かな        
                 西行

(なにごとも かわりのみゆく よのなかに おなじ
 かげにて すめるつきかな)

意味・・何事もすべて変わってばかり行く世の中で、
    昔と同じように月は澄んだ光を放つってい
    る。

    西行の生きた時代は動乱の相次ぐ世の中で
    あり、それを背景に、昔と変わらない光を
    放つ月をしみじみと羨ましく感じて詠んで
    います。
 
作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名は
    佐藤義清。鳥羽院北面武士。23才で出家。
 
出典・・歌集「山家集」。

このページのトップヘ