名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年02月


言出しは 誰ならなくに 小山田の 苗代水の 
中よどみする              
                 詠人知らず

(ことでしは たれならなくに おやまだの なわしろ
 みずの なかよどみする)

意味・・最初に言い出したのは誰でもない、あなた
    ですよ。それが山田の苗代水が途中で引っ
    かかって淀むように、今になって足踏みす
    るとは。

    ようやっとその気になった後、梯子を外さ
    れた気持です。

 注・・言出(ことで)し=言いだしっぺ。
    小山田=「小」は接頭語。
    苗代水=苗代に引き入れる小さな流れ。
    中よどみする=途中で淀むように、流れが
        止まる。

出典・・万葉集・

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      「月見ればちぢにものこそ悲しけれ・・」でも頓着せずに輝く月

見る人の 心こごろに まかせおきて 高嶺に澄める
秋の夜の月
                  鈴木弘恭

(みるひとの こころごころに まかせおきて たかねに
 すめる あきのよのつき)

意味・・同じ月であっても、見る人によって感想はそれ
    ぞれに違っている。皓々(こうこう)たる名月を
    喜ぶ者もあれば、またかえってこれを嫌う者も
    ある。盗賊とか駆け落ちとか、人目を忍び暗い
    所で仕事をする人には邪魔な名月でも、文士は
    波に砕けて黄金に映じると言ってこれを愛賞す
    る。見る人の心々に違って映るけれども、月は
    いつも皓々として輝いている。人が何と思うと
    も、すこしもそれに頓着しないで輝いている。

作者・・鈴木弘恭=1843~1897。御茶の水大学で国文
    学を教える。
    
出典・・新渡戸稲造著「自分をもっと深く掘れ」。



柏木の 森のわたりを うち過ぎて 三笠の山に
われは来にけり       
                 壬生忠岑

(かしわぎの もりのわたりを うちすぎて みかさの
 やまに われはきにけり)

意味・・私は柏木の森を通り過ぎて三笠の山まで
    やって来ました。
    兵衛府でのお勤めをすました私は、この
    たび皆様のおられる近衛府にお勤めする
    事になりました。

    兵衛府から近衛府に栄転した時のお祝い
    の席で詠んだ歌です。

 注・・柏木=奈良市にある地名。兵衛府(ひよう
    えいふ)、衛門府(えいもんふ)の異称、
    皇居を守る仕事をする。
    三笠=奈良市にある山の名。近衛府(こんえ
    いふ)の異称、天皇の護衛の仕事をする。

出典・・壬生忠岑=生没年未詳。古今和歌集の撰者
    の一人。

出典・・古今和歌集・1127。
 


たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の
咲ける見る時         

                  橘曙覧

(たのしみは あさおきいでて きのうまで なかりし
 はなの さけるみるとき)

意味・・私の楽しみは、朝起きて何気なく庭に目を
    やると、昨日まで無かった花があざやかに
    咲いた時です。その感動は大きいものです。

    アメリカの元クリントン大統領はこの歌を
    来日の演説に取り入れています。
    日々新しい難題が生まれて来る世の中であ
    るが、日一日新たな日と共に確実に新しい
    花が咲き物事が進歩して、人々の友情を育
     (はぐく)む関係改善の兆しを見つけた時が
    私の喜びです。


     私の楽しみは、苦難が生じる日々の中で、
    難題を乗り越えて花を咲かす時が楽しみです。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~ 1868。
    早く父母と死に別れ、家業の紙商を異母弟
    に譲り隠棲した。福井藩主と親交を持つ。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。

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             富嶽三十六景・葛飾北斎画

旅と言へば 言にぞ易き 術もなく 苦しき旅も
言にまさめやも     
                 中臣宅守
              
(たびといえば ことにぞやすき すべもなく くるしき
 たびも ことにまさめやも)

意味・・旅と口先で言うのはたやすい。しかし、どうしょう
    もなく辛(つら)く苦しいこの旅も、所詮は旅としか
    いい表わしょうがない。

    どんなことでも表現は容易なものだが、表現出来な
    いような苦しいこともある。こんどの旅がそれであ
    る、という気持ちを詠んでいます。

 注・・術もなく=どうしょうもない。
    まさめ=勝め。抜きんでいる。
    やも=詠嘆を伴って反語を表す。・・だろうかな、
     いや・・ではない。

作者・・中臣宅守=なかとみのやかもり。生没年未詳。763年
    に従五位になる。奈良時代の後期の歌人。

出典・・万葉集・・3763。 

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