名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年10月

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山寺の 入相の鐘の 声ごとに 今日も暮れぬと 
聞くぞ悲しき           
               詠み人知らず

(やまでらの いりあいのかねの こえごとに けふも
 くれぬと きくぞかなしき)

意味・・山寺の晩鐘の音を聞くごとに、これで一日が
    終わってしまうと思うが、今日もまた一日が
    暮れたと思って鐘の音を聞くと、まことに悲
    しい気持がすることだ。

    充実したことをせずに、今日も終わってしま
    うことは悲しい、という気持です。

    参考歌です。
    かくしつつ今はとならむ時にこそくやしきことの
    かひもなからめ
                 花山院(詞花和歌集)

    (こうして無為に過し続けて、もう最期という時
    には、その時に後悔しても間に会わないだろう)

注・・入相の鐘=日没時につく鐘。
   今は=死に際、臨終。

出典・・拾遺和歌集・1329。 

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去るとても香は留めたり園の梅   
                    吉田松陰

(さるとても かはとどめたり そののうめ)

意味・・梅園を去った今も、梅の香が服に残っている。
    いい匂いだ。

    松蔭はペルーがやって来た時、米国の見聞を
    広めようとして密航を企てたが、実現せず、
    逆に密出国の罪で同僚の金子重輔とともに罰
    せられ牢に入れられた。同罪であるが金子は
    劣悪な牢に入れられ獄死した。その時の哀悼
    の句です。同罪でなぜ違う罰を受けるのか。
    人間はなぜ人間を差別するのかと苦悩する。

    「香」は功績であり、人間らしさを求めた
    闘魂です。

作者・・吉田松陰=1830~1859。享年30歳。1854年
    ぺりーが来航した時、密航を企て入牢。その後
    出獄して松下村塾を開講。高杉晋作、伊藤博文、
    山形有朋等を育てる。1859年の安政の大獄で
    捕らえられ獄死する。

出典・・童門冬二著「吉田松陰」。 


むかし見し 主顔にて 梅が枝の 花だにわれに
物語せよ
                藤原基俊
              
(むかしみし あるじがおにて うめがえの はなだに
 われに ものがたりせよ)

詞書・・公実卿(きんざねきょう)かくれ侍りて後、かの家
    にまかりけるに、梅の花盛りに咲けるを見て枝に
    結び侍りける。

意味・・昔見たこの家の主のような態度で、梅の枝の花よ、
    せめて私に話しかけてくれ。

    実際は梅の花ではなく遺族に語りかけています。

    大黒柱の主人が亡くなり、大変困っていることで
    しよう。なにかあれば相談にのりますよ、どんな
    ことでもおっしゃってください、ということを言
    っています。

 注・・主顔=主は公実卿。
    だに=最小限の希望を表す。せめて・・だけでも。
    公実卿=藤原公実(1053~1107)・権大納言。
    かくれ侍りて=お亡くなりになって。

作者・・藤原基俊=ふじわらのもととし。1060~1142。
    従五位上・左衛門佐。「新撰朗詠集」編纂など
    和漢に通じた。

出典・・金葉和歌集・604。

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真木の屋に つもれる雪や 解けぬらん 雨に知られぬ
軒の玉水        
                   宗尊親王

(まきのやに つもれるゆきや とけぬらん あめに
 しられぬ のきのたまみず)

意味・・真木の屋に積もった雪が解けたのだろうか、
    雨では見られない玉のような雫が軒から落ち
    ている。
  
 注・・真木の屋=杉や檜の皮で屋根を葺(ふ)いた家。

作者・・宗尊親王=むねたかしんのう。1242~1275。
    33歳。後嵯峨天皇の第二皇子。鎌倉幕府の第
    六代将軍。

出典・・文応三百首(岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」)180130

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たのしみは 昼寝目ざむる 枕べに ことことと湯の
煮えてある時
                 橘曙覧

(たのしみは ひるねめざむる まくらべに ことことと
 ゆの にえてあるとき)

意味・・私の楽しみは、昼寝から目がさめると、枕の
    そばの火鉢にかけた鉄瓶が、ことこと、こと
    ことと煮え立った音を立てている時だ。夢の
    中の恍惚感を、この湯の音が呟(つぶや)いて
    いるよに感じせれる。

    「盧生一炊の夢」を念頭に詠んでいます。
    中国の唐の盧生という青年が立身を志して、
    旅先の邯鄲(かんたん)という町で仙人に枕を
    借りて一眠りする間に一生の富貴栄華の夢を
    見るが、目覚めると宿の主人が炊(かし)いで
    いた黄粱(こうりょう・粟飯)はまだ煮えてい
    なかったという故事。人間の一生は短く、栄
    枯盛衰のはかないことのたとえであるが、自
    分が立身出世する夢を見ることは楽しいもの
    です。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。紙
    商の長男に生れるが、家業は異母弟に譲り隠
    棲。福井藩主に厚遇された。

出典・・岡本信弘著「独楽吟」。

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