名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年09月

イメージ 1


ゆほびかに たけはた高し よきをうなの なやめるところ
なしとぞいはまし        
                    橘曙覧 

(ゆおびかに たけはたたかし よきおうなの なやめる
 ところ なしとぞいわまし)

意味・・小野小町という人の人柄は奥ゆかしく、品位や風格
    が高く高貴な立派な方です。そのような素晴しい方
    が悩めるところがある、と「古今集の序」で言って
    いるが悩むところがないと言ったらよかっただろう
    に。

    歌の題は「小野小町」となっています。
    小野小町は古今集の仮名序に「いはば、よき女の悩
    めるところあるに似たり」と評されています。

    人間の欲望にはきりがないが、欲望があれば不満が
    ついてまわり、それが悩みに通じます。
    小野小町のような高貴な方は、なにもかにも満足し
    欲望も不満も悩みもないで欲しい、という事を詠
    んでいます。

    森鴎外の「高瀬舟」の一節、参考です。

   「人は身に病があると、この病がなかったらと思ふ。
    其日其日の食がないと、食っていかれたらと思ふ。
    万一の時に備へる蓄えがないと、少しでも蓄えが
    あったらと思ふ。蓄えがあっても、又其の蓄えが
    もっと多かったらと思ふ。かくの如くに先から先
    に考えて見れば、人はどこまで往って踏み止まる
    ことが出来るやら分からない。それを今目の前で
    踏み止って見せてくれるのがこの(罪人の)喜助だ
    と、(同心の)庄兵衛は気がついた」    

 注・・小野小町=平安前期(西暦850年)の女流歌人、
      六歌仙の一人。絶世の美人といわれた。
    ゆほびか=ゆったりして奥ゆかしいこと。
    たけ=格調。風格。
    はた=同趣の意を表わす。やはり。それもまた。
    をうな=女。
    なやむ=精神的に苦しむ。病気で苦しむ。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。早く父母
    に死別。義弟に家業を譲り隠棲した。福井藩主に
    厚遇された。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集・1038」。


浪もなく 風ををさめし 白河の 君のをりもや 
花はちりけん
                西行

(なみもなく かぜをおさめし しらかわの きみの
 おりもや はなはちりけん)

意味・・四海波静かに、風も枝を鳴らさぬまで、統治されて
    いた白河院の御世でも、やはりこうして花は散った
    ことだろう。

    花が散るのを惜しんで詠んだ歌です。
    四海波静かに出来るほどの白河院でさえ、花を散ら
    す風は治められなかっただろう、と諦めた気持です。

    白河院は「賀茂川の水、双六の賽、三蔵法師、これ
    ぞ我が心にかなわぬもの」と嘆き、その権威を誇っ
    たという逸話があります。
 
    花は散り、人は年を取り老いて行く、という無常観
    を詠んでいます。元気な今なら海洋の怒涛にも荘厳
    な山岳にも接する事が出来る。老いたら何も出来な
    いのだぞ、 若い今の内にやりたいことはやり遂げる
    のだぞ、といっているみたい。

  注・・白河院=1055~1129。72代天皇。後拾遺和歌集・
      金葉和歌集の撰集を命じる。
    無常=いつも変化していること、全ての物が生滅
     変転してとどまらないこと。
 
作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。歌集「山家集」。
 
出典・・山家集・107。


ながめこし 花より雪の ひととせも けふにはつ瀬の
いりあひの鐘
                  頓阿法師
              
(ながめこし はなよりゆきの ひととせも きょうに
 はつせの いりあいのかね)

意味・・春の花から冬の雪まで、ずっと眺めてきた
    この一年も、今日で終わったと初瀬の入相
    の鐘が響いている。

 注・・初瀬=奈良県桜井市初瀬。長谷寺がある。
    いりあひ=入相。夕暮れ。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。
    俗名は二階堂貞宗。和歌の四天王。

出典・・頓阿法師詠(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)
 


いたづらに なす事もなく くれはつる としもつもりの
うらめしの世や
                    寒河正親

(いたずらに なすこともなく くれはつる としも
 つもりの うらめしのよや)

意味・・今年はこれだけの事をした、という充実感もなく、
    無駄に月日を送ってはや年も暮れようとしている。
    悔やまれることである。子や孫よ、こんな事では
    いけないのだぞ。

 注・・としもつもり=年も積り。月日が積み重ねる。

作者・・寒河正親=さむかわまさちか。生没年未詳。江戸
    時代の初期の教訓的作者。

出典・・教訓書「子孫鑑(しそんかがみ)」。

イメージ 1


外山ふく あらしの風の 音聞けば まだきに冬の
をくぞ知らるる 
                 和泉式部
              
(とやまふく あらしのかぜの おときけば まだきに
 ふゆのおくぞしらるる)

意味・・外山を吹く嵐のような風の音を聞くと、早くも
    深まりゆく冬の寒さの厳しさが思い知らされる
    ことだ。

 注・・外山=人里に近い山。奥山・深山に対する。
    まだきに=早くも。
    冬のをく=冬の奥。冬が深まった寒さの厳しい
     時期。「外山」に対して「おく」といった。

作者・・和泉式部=いずみのしきぶ。978頃~。一条天皇
    の中宮・章子に仕える。「和泉式部日記」。

出典・・千載和歌集・396。

このページのトップヘ