名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年07月

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葦鶴の ひとりおくれて 鳴く声は 雲の上まで 
聞こえ継がなむ     
                 大江千里

(あしたづの ひとりおくれて なくこえは くもの
 うえまで きこえつがなむ)

意味・・葦の間にただ一羽とり残されて鳴く鶴の声は、
    低い沼地から雲の上にまで、何とかして聞え
    ないものでございましょうか。

    一人だけ官位昇進に遅れた作者自身を仲間に
    遅れた鶴にたとえたものです。

注・・葦鶴(あしたづ)=鶴のこと。葦のある水辺にいる
    ことが多いのでこういう。
   雲の上=宮中のこと。
   聞え継ぐ=「仲間の者が取り継ぐ」の意と「かろ
    うじて聞えるように」の意を掛ける。

作者・・大江千里=おおえのちさと。900年前後の人。
    在原業平の甥。文章博士。
 
出典・・古今和歌集・998。


夕されば 野辺の秋風 身にしみて 鶉鳴くなり 
深草の里
                 藤原俊成
          
(ゆうされば のべのあきかぜ みにしみて うずら
 なくなり ふかくさのさと)

意味・・夕暮れになると野辺を吹き渡ってくる秋風が
    身にしみて感じられ、心細げに鳴く鶉の声が
    聞こえてくる。この深草の里では。

    捨て去られた女が鶉の身に化身して寂しげに
    鳴く晩秋の夕暮れの深草の情景です。

    この歌は「伊勢物語」の123段の話を典拠とし
    て詠んでいます。

    男に飽きられ捨てられかかった深草の里の女に、
    「私が出て行ったら、ここは深草の名の通りに
    いっそう草深くなって野原となってしまうだろ
    うなあ」と冷たく言い放つ男に対して、

    「野とならば 鶉となりて 鳴き居らん 狩に
    だにやは 君は来ざらん」

    (おっしゃるように、ここが野原となってしまう
    のなら、私は、見捨てられた場所にふさわしい
    鳥と昔からされている鶉になって鳴いている事
    にしましょう。時には狩にでもあなたが来てく
    ださらないものでないでしょうから)
 
           と答え、男はその歌に感動して出て行くのを止め
           たという話です。

 注・・夕されば=夕方になると。
    秋風=「秋」には「飽き」が掛けられている。

作者・・藤原俊成=ふしわらのとしなり。1114~1204。
    正三位皇太宮大夫。「千載和歌集」の撰者。
 
出典・・千載和歌集・259。

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伊勢の海の 清き渚は さもあらばあれ われは濁れる
水に宿らむ
                   詠み人知らず

(いせのうみの きよきなぎさは さもあらばあれ われは
 にごれる みずにやどらん)

意味・・伊勢の海の清い渚は美しく気持ちの良いところで
    ある。それはそれでよいとして、私はむしろ濁っ
    た水に宿ろう。

    私は温室で育つのではなく、濁った喧騒な俗世に
    入ってもまれて生きて行こう、という気持ちです。

出典・・玉葉和歌集・2617。

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村雨の 露もまだ干ぬ 槙の葉に 霧立ちのぼる
秋の夕暮れ      
                寂蓮法師
       
(むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きり
 たちのぼる あきのゆうぐれ)


意味・・ひとしきり降った村雨が通り過ぎ、その雨
    の露もまだ乾かない杉や檜の葉に、早くも
    霧が立ちのぼって、白く湧き上がってくる
    秋の夕暮れよ。

    深山の夕暮れの風景。通り過ぎた村雨の露
    がまだ槙の葉に光っている。それを隠すよ
    うに夕霧が湧いて来て幽寂になった景観を
    詠んでいます。

 注・・村雨=にわか雨。
    露=雨のしずく。
    まだ干ぬ=まだ乾かない。
    槙(まき)=杉、檜、槙などの常緑樹の総称。

作者・・寂蓮法師=じゃくれんほうし。1139~1202。
    俗名は藤原定長。新古今和歌集の撰者の一人。
    従五位上。
出典・・新古今集・491、百人一首・87。
 

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山道に 昨夜の雨の 流したる 松の落葉は 
かたよりにけり
               島木赤彦

(やまみちに ゆうべのあめの ながしたる まつの
 おちばは かたよりにけり)

意味・・山道を下りながら、ふと気がつくと松の落葉
    がきれいに一方に掃きよせられたようになっ
    ている。そういえば昨夜はひどく雨が降って
    いたが、これはその時流された跡なのだなあ。

    有馬温泉に行った時に詠んだ歌です。夜来の
    雨で十分に湿りを帯びた土、きれいに片よっ
    ている松葉、まだ誰も通らない山道を踏みし
    めていくさわやかな気分を詠んでいます。

作者・・島木赤彦=しまきあかひこ。1876~1926。
    長野師範学校卒。大正期の代表的歌人。

出典・・岩城之徳篇「現代名歌鑑賞辞典」。

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