名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年07月

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世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも
鹿ぞ鳴くなる    
                 藤原俊成
         
(よのなかよ みちこそなけれ おもいいる やまの
 おくにも しかぞなくなる)

意味・・世の中は逃れるべき道がないのだなあ。
    隠れ住む所と思い込んで入った山の奥
    にも悲しげに鳴く鹿の声が聞こえる。

    俗世の憂愁から逃れようと入った奥山
    にも安住の地を見出せなかった失望感
    を、哀切な鹿の鳴き声に託して詠んで
    います。

 注・・道こそなけれ=逃れる道はないのだ、
     の意。「道」には、てだて、手段の
     気持がこめられている。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114
    ~1204年没。正三位皇太后大夫。「千
    載和歌集」の撰者。
 
出典・・千載和歌集・1151、百人一首・83。
 


浮草の ひと葉なりとも 磯隠れ 思ひなかけそ
沖つ白波
                詠み人知らず

(うきくさの ひとはなりとも いそがくれ おもい
 なかけそ おきつしらなみ)

詞書・・不偸盗戒(ふちゅうとうかい)

意味・・浮き草の一葉でも、磯に隠れて欲しいと思う
    な、沖の白波よ。

    たとえ浮草の葉一枚といったわずかな物でも、
    こっそり隠れて人の物をかすめ取ろうといっ
    た考えを起こしてはならないよ、盗人よ。

 注・・浮草のひと葉=わずかな物でも、という意を
     暗示。
    磯隠れ=こっそりと、という意味を暗示。
    思ひなかけそ=「思ひかけ」はここでは欲し
     いと思うこと。「な・・そ」は禁止の表現。
    沖つ白波=盗賊のこと。中国の「後漢書」に、
     白波谷に賊がこもっていたという故事から
     山賊や海賊を「白波」という。
    不偸盗戒(ふちゅうとうかい)=盗みをしない、と
     いう戒め。

出典・・新古今和歌集・1963。

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そばだちて 公孫樹かがやく 幾日か 時を惜しめば
時はやく逝く
                   長沢一作

(そばだちて いちょうかがやく いくにちか ときを
 おしめば ときはやくゆく)

意味・・公孫樹は澄んだ空に塔のように高くそびえている。
    幾日か黄色に輝いてたちまち終わる。秋を惜しん
    でいると、秋は早く過ぎ去って行く。

    人生の秋も意識すると早く過ぎ去る、と寂しさを
    詠んでいる。

    参考の言葉です。

    「急げば急ぐほど、ますます、時間を失う」

             エクナット・イーシユワラン
              (インドの著述家)

 注・・そばたちて=高くそびえる。

作者・・長沢一作=ながさわいっさく。1926~2013。
    佐藤佐太郎に師事。慶応義塾商業卒。富士科学
    紙工業勤務。


ありし世の 旅は旅とも あらざりき ひとり露けき
草枕かな        
                  赤染衛門

(ありしよの たびはたびとも あらざりき ひとり
 つゆけき くさまくらかな)

詞書・・頼りにしていました人に先立たれて後、
    初瀬の寺に参詣して、夜泊まっていた
    所に、草を結んで、「枕にしなさい」
    といって。人がくださいましたので、
    詠みました歌。

意味・・夫の生きていたころの旅は、旅という
    ほどのものでもありませんでした。
    今は私一人、辛くて涙ぽい草枕の旅寝
    をしていることですよ。

    「枕にせよ」といって結んだ草を贈ら
    れた好意に対し、夫の死後の旅寝の述
    懐によって答えた作です。

 注・・ありし世=夫が生きていたころ。
    露けき=涙がちな。
    草枕=旅寝の枕。

作者・・赤染衛門=あかぞえもん。生没未詳。
    1041年頃80歳余。平兼盛の娘とも伝
    えられている。
 
出典・・新古今和歌集・923。
 

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秋山の 樹の下隠り 行く水の 我こそ増さめ
思ほすよりは
               鏡王女

(あきやまの このしたがくり ゆくみずの われこそ
 まさめ おもおすよりは)

意味・・秋の山の木の下は、落葉に埋れています。その
    下深く隠れて、ひそかに流れて行く水、つまり
    隠水(こもりず)のように、たとえ表面にこそ出
    なくても、あなたが私を思ってくださるよりは、
    私があなたをお慕いする、その心のほうがずっ
    とまさっているのです。表だって声を大きくし
    て、あなたを愛しています、なんて言いはしま
    せんけど、ほんとうは、あなたより私のほうが
    あなたを愛しているのです。
 
 注・・思ほす=愛する、恋慕う。

作者・・鏡王女=かがみのおうきみ。645年頃の人。額
    田王の姉といわれている。藤原鎌足の正妻。

出典・・万葉集・92。
 

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