名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年04月


下手ぞとて 我とゆるすな 稽古だに つもらばちりも
やまとことの葉
                  島津忠良

(へたぞとて われとゆるすな けいこだに つもらば
 ちりも やまとことのは)

意味・・いくら下手でも稽古をおろそかにするものでは
    ない。毎日少しずつ稽古を積み重ねれば必ず上
    達する。「塵も積もれば山となる」の譬えどお
    りである。

作者・・島津忠良=しまづただよし。1492~1568。薩摩
    の戦国武将。

出典・・高城書房篇「島津日新公いろは歌」。

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                            老いてなお円熟さが増す和紙を漉(す)く匠

老いてなほ 艶とよぶべき ものありや 花は始めも
終りもよろし 
                   斉藤史

(おいてなお つやとよぶべき ものありや はなは
 はじめも おわりもよろし。

意味・・年老いた身にも艶やかさはあるのでしょうか。
    もちろん艶やかさはありますとも。桜の花だ
    って満開の時だけが素晴らしいのではありま
    せん。蕾の時もよいし、何と言っても散り際
    が一番美しいではありませんか。

    80歳を過ぎた時の歌で、自分の気概を詠んで
    います。

作者・・斉藤史=さいとうふみ。1909~2002。福岡
    県立小倉女学校卒。前川佐美雄らと「短歌作
    品」を発刊。

出典・・歌集「秋天瑠璃」(栗本京子著「短歌を楽しむ」)


夜々を 野分の風に 戻り来る 夫よ切なし
仕事のにおう
               新免君子

(よるよるを のわけのかぜに もどりくる おっとよ
 せつなし しごのにおう)

意味・・夫は毎日夜になって帰って来る。「会社や世間
    のや厳しさ」という野分の風の中を戻って来る。
    毎日、仕事の臭いをさせて疲れて帰っ来る勤め
    人である夫の姿。その姿に労わりや感謝をして
    いるが、切なさを覚えてくる時もある。

    苦境に立ち向かう夫の姿はたくましく思われる
    が、弱々しい時もある。こんな時はやはり辛い
    気持ちになって来る。

作者・・新免君子=しんめんきみこ。歌人。

出典・・歌集「飛花」(杉田喜代子著「短歌と人生」)


心から うきたる舟に 乗りそめて 一日も浪に
濡れぬ日ぞなき
                 小野小町

(こころから うきたるふねに のりそめて ひとひも
 なみに ぬれぬひぞなき)

意味・・自分の心のままに「浮き」ではなく「憂き」た
    る舟に乗りそめて、一日も浪ならぬ涙に濡れな
    い日はありません。

    誰に強制されたものでなく、自分からその男と
    の関係を作り、今、つれない態度をとられたの
    であって、誰をも怨むことも出来ないと、嘆い
    ています。

 注・・心から=我が心から。
    うきたる舟=「浮き」に「憂き」を掛ける。
    浪=「波」に「涙」を掛ける。

作者・・小野小町=おののこまち。生没年未詳。840年
    頃、後宮(こうきゅう・ 王や皇帝などの后妃が
    住まう場所)に仕えた。六歌仙の一人。絶世の
    美女という小町伝説がある。    

出典・・後撰和歌集・779。


植えざれば 耕さざれば 生まざれば 見つくすのみの
命もつなり
                  馬場あき子

(うえざれば たがやかさざれば うまざれば みつくす
 のみの いのちもつなり)

意味・・田を植えることもなく、畑を耕すこともなく、
    子を産むこともなかった私。農耕や女性の生に
    関する尊い営みであるが、それをしなかった私。
    それをしなかった自身の生き方を見つめると、
    世の中をひたすら見つめ続けて生きて行きたい。
    歌人として、今、ここに生きています。

 注・・見つくす=見極める。

作者・・馬場あき子=ばばあきこ。1928~ 。昭和女子
    大卒。窪田章一朗に師事。夫は歌人の岩田正。

出典・・歌集「桜花伝承」(杉山喜代子著「短歌と人生」)

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