名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年04月


とや心 朝の小琴の 四つの緒の ひとつを永久に
神きりすてし
                与謝野晶子

(とやこころ あさのおことの よっつのおの ひとつを
 とわに かみきりすてし)

意味・・私は今、鳥屋ごころ、つまり脱落感でいっぱいの
    淋しい心持です。毎朝楽しんで弾いていた四弦の
    琵琶の、その一弦を突然、神様が永久に切り落と
    してしまわれたのですから・・。

    晶子の境時代に親密だった四人の兄弟の長兄・秀
    太郎(後、東大教授、鉄幹との恋愛に反対)との永
    遠の兄弟縁が切られ、人間的な悲愁を暗示した歌
    です。

 注・・とや=鳥屋。鳥の羽根が季節によって抜け変わる
     こと。
    とや心=羽毛が抜け落ち気力なく淋しい心。
    小琴=四弦の琵琶。
    四つの緒=四弦の意と「四人の数喩」。ここでは
     四人は四兄弟を暗示。
    朝=時の朝と人生の朝の喩。四人の兄弟の幼少期
     を暗示する。
    琴の緒を切る=知己を失う。中国の故事で、琴の
     名手伯牙(はくが)が、自分の琴を唯一解し得た
     友人の鐘子期(しょうしき)の死に逢い、琴の弦
     を断って二度と琴を手にしなかったという故事
     から親し友人に死別する事。

作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。18781942。堺
    学校卒。与謝野鉄幹と結婚。「明星」の花形と
    なる。

出典・・みだれ髪。

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五月雨に 物思ひをれば 時鳥 夜深く鳴きて
いづち行くらむ 
                     紀友則

(さみだれに ものもいおれば ほととぎす よぶかく
 なきて いずちゆくらん)

意味・・五月雨の音を聞きながら、物思いにふけってい
    ると、ほととぎすが夜更けの空を鳴いて飛ぶの
    が聞こえるが、どの方向をさして行くのだろう。

    降りしきる五月雨の中、静かな瞑想を破る時鳥
    の、悲しい鳴き声が聞こえて来る。彼らはどこ
    に飛び去って行くのか、そして自分も彼らの後   
    を追って飛び去ってしまいたい。

    「物思ひ」の具体的なものは分らない。恋の悩
    か、病気なのか対人関係のまずさか、社会的な
    問題か・・、悩みの種はつきないが、いずれに
    しても時が解決してくれる。

 注・・五月雨=陰暦五月に降り続く長雨、梅雨。
    いづち=どちらの方向。「いづく」より方角に
     力点のある語。
    物思ひ=思い悩み、心配事。

作者・・紀友則=きのとものり。生没年未詳。紀貫之は
    従兄弟にあたる。「古今集」の撰者の一人。

出典・・古今和歌集・153。

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吉野山 花の故郷 跡絶えて むなしき枝に
春風ぞ吹く
                   藤原良経

(よしのやま はなのふるさと あとたえて むなしき
 えだに はるかぜぞふく)

意味・・吉野山の桜の花の散ってしまった旧都は、今は、
    訪れる人もなくなって、花のない桜の枝に、花
    を散らした春風ばかりが、訪れて吹いているこ
    とだ。

    吉野山を一面に美しく咲きおおった桜の花が散
    り果て、すでにむなしくなっている旧都の寂し
    さに、花を吹き散らした春風ばかりが訪れてい
    ると、恨みがましい気分を添えています。

 注・・吉野山=奈良県吉野郡吉野町にある山。
    花の故郷=花の散ってしまった旧都。古く離宮
     のあった所の意。
    跡絶えて=訪れる人がなくなって。「跡」は人
     の足跡。
    むなしき枝=花のない桜の枝。

作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。1169~1206。
    37歳。従一位太政大臣。「新古今集仮名序」を
    執筆。

出典・・新古今和歌集・147。

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             全盛の山吹の花

春雨の けならべ降れば 葉がくれに 黄色乏しき
山吹の花
                  正岡子規

(はるさめの けならべふれば はがくれに きいろ
 ともしき やまぶきのはな)

意味・・春雨が毎日毎日降るので、葉の陰に散り残った
    黄色の花も、まことに数少なくなり色も褪せて
    きたものだ、山吹の花は。

    「黄色乏しき」に山吹の盛りの過ぎたのを惜し
    み、また、自分の体力の衰えた状態を重ねてい
    る。

 注・・けならべ=日並べ。日数を重ねる。
    黄色乏しき=「乏しき」は不足、欠けているの
     意。ここでは山吹の黄色の花が大方散って残
     り少ないこと。子規の病状の衰えを暗示して
     いる。

作者・・正岡子規=まさおかしき。1867~1902。35歳。
     東大国文科中退。結核・骨髄カリエスを患う。

出典・・墨汁一滴(谷馨著「現代短歌精講」)

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                朴の花


朴の花猶青雲の志 
                   川端茅舎

(ほおのはな なおせいうんの こころざし)

意味・・朴の花は五月に咲く。そのとき辺り一面は、
    目に痛いばかりの新緑である。明るく降り
    そそぐ初夏の陽光に、萌え生ずる鮮やかな
    若葉がきらめいている。そんな情景の中に、
    白い朴の花が咲いている。自然界の、あの
    清々しい息吹きが、さわやかな薫風にのっ
    てやって来る。見つめていると、青雲の志
    を抱き奮闘した若き日々が脳裏を駆け巡る。
    そして思うのだ。「何を弱気になっている
    んだ。まだまだ、これからだ。まだまだ、
    これから頑張らなくてどうする!」

 注・・朴(ほお)の花=木蓮科の花。5月頃香りのあ
    る白い大きな花が咲く。樹木の葉の中では
     葉は一番大きく、昔は紙皿やアルミホイ
     ルの代わりに使われた。

作者・・川端茅舎=かわばたぼうしゃ。1897~1941。
    画家であり俳人。画は岸田劉生に師事、俳句
    は高浜虚子に師事。長年、脊髄カリエスを患
    う。

出典・・半田青涯著「歴史を駆け抜けた群雄の一句」。
    

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