名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年03月


水の上に 数書くごとき わが命 妹に逢はむと 
祈誓ひつるかも

(みずのうえに かずかくごき わがいのち いもに
 あわんと うけいつるかも)

意味・・水の上に数を書くようなはかないわが命、
    そんな身でありながら、あの娘にきっと
    逢おうと、私は誓いをたてて神にお祈り
    をしている。

 注・・祈誓(うけ)ひ=うけある事を心に誓って
     神に祈り、神意を伺うこと。

作者・・柿本人麿=かきのもとのひとまろ。生没
    年未詳。

出典・・万葉集・2433。


あな欲しと 思ふすべてを 置きて去る とき近づけり
眠ってよいか
                   竹山広

(あなほしと おもうすべてを おきてさる とき
 ちかずけり ねむってよいか)

意味・・この世で必要とした物事の全てを残して去る
    時が近づいてきた。これまでの生涯を与え支
    えてくれた物達よ、もう眠りについてもよい
    だろうか。

作者・・竹山広=たけやまひろし。1920~2010。海
    星中学卒。歌人。

出典・・歌集「眠ってよいか」(杉山喜代子著「短歌と
    人生」)


もの忘れ またうちわすれ かくしつつ 生命さへや
明日は忘れむ
                   太田水穂

(ものわすれ またうちわすれ かくしつつ いのち
 さえや あすはわすれん)

意味・・老いて益々物忘れが激しくなり、ちよっとした
    事もすぐ忘れまた忘れる。このようにして生き
    ている生命さえも明日は忘れてしまうのではな
    かろうか。

    衰えて頼りがいが無くなって行く自分を知るの
    は寂しく、時には恐ろしい。しかし「もの」か
    ら解放され無責任となって自在となった境地が
    あり、衰える心身を解き放している。

 注・・む=推量の意味。・・だろう。

作者・・太田水穂=おおたみずほ。1876~1955。長野
    師範卒。

出典・・歌集「老蘇の森」。


          イメージ 2

不足なる 事を堪へよ 何時も 恨みん事は
易き世の中
               荒木田守武

(ふそくなる ことをたえよ なんどきも うらみむ
 ことは やすきよのなか

意味・・不足に思う事を我慢しなさい。愚痴を言う事は
    常に簡単な事である。この世の中は。

    この歌に添えられた注釈です。
    ある人が言った。「堪忍という字は百貫文の価
    値がある」。すると、傍でそれを聞いていた人
    が「どうして百貫文だけであろうか。王侯が一
    度我慢できなければ天下が騒乱になるし、一家
    の主人が我慢できなければ、一家が騒動になる。
    忍の一字の価値は、無限であろう」と言ったの
    は、実に卓見であった。常に、口に出すことは
    簡単であるから、我慢するに越した事はない、
    この世の中である。

    絵は、縁側で立って何か言っている客風の男性
    と、膝をついてそれを聞く目下風の男性の姿が
    描かれています。客か主人が店の者に何か文句
    を言っているのかと思われます。


 注・・恨みむ=愚痴をいう。
    百貫文=1000文。25両。

作者・・荒木田守武=あらきだもりたけ。1473~1549。
    伊勢神宮神官

出典・・世中百首絵鈔。

イメージ 1
                               杏の花

働いてゆふべはきたり花杏
                黒田杏子

(はたらいて ゆうべはきたり はなあんず)

意味・・無我夢中で時の経つのも忘れて働いた一日。
    気が付けばもう夕方になっている。身体は
    くたくたであるが、心地よい疲れと満足感
    がみなぎっている。庭には可憐な杏の花が
    咲き、よく働いた一日をねぎらっているよ
    うだ。

    漫然と働いていたのではこの実感はないで
    しょう。よく働いた一日を振り返り、いと
    おしむ思いが、花杏に託されています。

 注・・杏=バラ科の落葉木。花は3下旬から4月上
     旬に咲く。花は桜に似ている。

作者・・黒田杏子=くろだももこ。1938~1938 。
    東京女子大卒。

出典・・黛まどか著「あなたへの一句」。

このページのトップヘ