名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年03月

イメージ 1

手のひらに 豆腐をのせて いそいそと いつもの角を
曲がりて帰る
                   山崎方代

(てのひらに とうふをのせて いそいそと いつもの
 かどを まがりてかえる)

意味・・私の楽しみは豆腐を食べることである。豆腐を
    つまみに酒を飲むと何ともいえない幸せを感じ
    る。
    豆腐を入れる器はいらない、とにかく豆腐が手
    に入ればいいのである。
    今日も売り切れずに買う事が出来た。良かった。
    さあ急いで帰ろう。角を曲がれば我が家はすぐ
    そこだ。手のひらにのった豆腐はうまいぞ、酒
    がうまいぞ。

    今のスーパーでビニール入りの豆腐を買うので
    はなく、「お豆腐屋さん」に行って買う時代で
    ある。無職に近い方代は器なんか気にしない。
    買う金が無い時もある。売り切れて買えない時
    もある。豆腐が買えた事が嬉しい。この豆腐で
    美味い酒が飲めるのは楽しみだ。急いで帰ろう。

    豆腐が買えた喜びと、これで美味い酒が飲める
    という楽しみ、この喜び二つを詠んでいます。

    日々の生活に、嬉しい事や喜びを意
識するとい
    う事は、いい事である。    

作者・・山崎方代=やまざきほうだい。1914~1985。甲
    府市・右左口(うばぐち)尋常小学校卒。1941年戦
    傷で右目を失明。靴の修理をしながら各地を放浪。
    毎年9月鎌倉の瑞泉寺で方代忌か催されている。

出典・・尾崎佐永子著「鎌倉百人一首を歩く」。


夕暮れの 心の色を 染めぞおく 果てつる鐘の
声のにほひに
                正徹

(ゆうぐれの こころのいろを そめぞおく はてつる
 かねの こえのにおいに)

意味・・仕事が一段落した夕暮れの、落ち着いた気分に
    なったこういう時を、長く心に留めておこう。
    撞き終わる寺の晩鐘の余韻に浸る事によって。

    どどどん~、どどどん~という太鼓の音を聞け
    ば気持ちを奮い立たせてくれますが、その反面、
    ご~んという梵鐘の音は、静けさをもたらし心
    を落ち着かせてくれます。この鐘の音を聞きな
    がら、今日一日の無事に感謝し、ゆったりし
    気持ちになり、そして明日に備えよう。    

 注・・心の色=心の様子、深く思っている心の状態。
    染めぞおく=深く心に染(し)み入れておく。
    声のにほひに=美しく映える鐘の音に。

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。東福寺の僧。
     冷泉為尹(れいぜいためまさ)に師事。

出典・・歌集「草根集」(窪田章一郎編「和歌鑑賞辞典」)。

イメージ 1


七里浜 夕日漂ふ 波の上 伊豆の山々
果てし知らずも
                  西田幾太郎

(しちりはま ゆうひただよう なみのうえ いずの
 やまやま はてししらずも)

意味・・東京にいる時と比べ鎌倉にいると、ゆった
    りした時が流れている。急がなくてもいい。
    あわてなくてもいい。そんな気分にしてくれ
    るのが七里ガ浜である。今、藁の上に寝こ
    ろんでいる。
    今、夕日が沈み波の上は赤く光輝いている。
    山側では、富士山のシルエット、その右には
    丹沢、手前に箱根、左に天城山から伊豆半
    島全てが影絵のように浮かび上がる。そして、
    自分の小天地に入り、瞑想の世界に入って
    行く。
    今日も一日が無事に終わろうとしている。私
    の人生は波乱万丈であった。その苦悩の果
    て今は安らぎを感じさせてくれる。

    西田幾多郎の言葉「人間の至福は高屋にあら
    ず、風景にあらず、ただ無事平常の中にあり」
    の心境を詠んだ歌です。

    七里ガ浜にはこの歌の歌碑が建てられていま
    す。

 注・・果てし知らず=「山々が果てなく続いている」
     の意と「苦悩の果てに安らかである」の意。

作者・・西田幾多郎=にしだきたろう。1870~1945。
     東大選科修了。京大教授。若い時肉親(姉・
     弟・娘二人・長男)の死、父の事業の失敗で
     破産、妻との離縁と多くの苦難を味わった。

出典・・尾崎佐永子著「鎌倉百人一首を歩く」。

イメージ 1


悲しさよ まさりにまさる 人の世に いかに多かる
涙なりけり
                  伊勢

(かなしさよ まさりにまさる ひとのよに いかに
 おおかる なみだなりけり)

意味・・どうしてこんな悲しい事が続き、前の悲しみ
    より次の悲しみは、どうしてこんなに深くな
    るのか。私はこの人生に、いったい、どれ程
    の涙を流せばいいのだろう。

作者・・伊勢=生没年未詳。宇多天皇の皇后に仕える
     女官。皇后の弟と恋仲になるが恋人に捨て
     られる。宇多天皇との間に子供が生まれた
     が引き離された。その子は5歳で亡くなっ
     た。天皇の死、そして天皇の親王と恋仲に
     なり子供を生む。このような波乱万丈の人
     生を送る。

出典・・清川妙著「人生をたのしむ言葉」。


小竹の葉は み山もさやに さやげども われは妹思ふ
別れ来ぬれば
                   柿本人麻呂

(ささのはは みやまもさやに さやげども われは
 いもおもう わかれきぬれば)

意味・・笹の葉は山全体がざわめくほどザワザワと乱れ
    騒いでいるが、私はただひたすら妻のことを思
    い続けている。別れて来てしまったので。

    妻を石見国に残して都に上がるときの旅の途中
    の歌です。

 注・・石見=鳥取県の西部。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。宮廷歌人。

出典・・万葉集・133。

このページのトップヘ