名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年01月

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外にも出よ 触るるばかりに 春の月
                     中村汀女

(とにもでよ ふるるばかりに はるのつき)

意味・・赤みを帯びたそれはそれは大きな月が山の端に
    上りました。それを見つけた作者は人々に呼び
    かけます。こんなに佳(よ)い月が上がっている
    のに、家に籠っているなんてもったいない。外
    に出て共に月を仰ぎましょう!。

    単に外出するというだけでなく、自分の殻から
    出ませんか?という意味が含まれているように
    も思えます。いつもの場所、いつもの自分から
    飛び出して、月に花に親しんでみませんか?
    そこには思いがけない出会いや答えが待ってい
    るかもしれません。

作者・・中村汀女=なかむらていじょ。1900~1988。
    高浜虚子に師事。

出典・・句集「花影」(黛まどか著「あなたへの一句」)

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改めて 何とかあらん 少々は 知らず顔して
送れ世の中
               荒木田守武

(あらためて なんとかあらん しょうしょうは 
 しらずかおして おくれよのなか)

意味・・詮索して何があろうか。少々のことは知らない
    顔をして見送りなさい。世の中は。

    絵は、室内で夫と見られる男性が妻と見ら
    れる女性の襟元を掴んで何やら責め、女性
    が困った顔をしているのを、戸外の男性が
    困ったような呆れたような顔をして見やっ
    ている場面を描いています。女性を責めて
    いるらしい男性はさしずめ、少々の誤りを
    見過ごさずに詮索しているのでしょう。そ
    れを「やれやれ困ったことだ。知らん顔を
    して見過ごしておけばいいものを」と、戸
    外の男性は苦笑しているようです。







 


注・・改めて=取り調べて、吟味して。

作者・・荒木田守武=あらきだもりたけ。1473~
    1549。伊勢神宮神官。

出典・・笠間書院「室町和歌への招待」。

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冬の水 一枝の影も 欺かず
               中村草田男

(ふゆのみず いっしのかげも あざむかず)

意味・・一枚の鏡のようにぴんと張り詰めた水があり
    ます。さざなみも立てず冬の木々を映してい
    ます。一枝も見逃さず、冬木の仔細を映す水
    面。なんという緊張感でしょう。

    息を飲むような自然界の美しさと厳しさを余
    さず描ききっています。自らの全てを映す冬
    の水のような鏡を、いつも心の中にたたえて、
    正直に生きて行きたいと念じています。
    
作者・・中村草田男=なかむらくさたお。1901~19
    83。東大国文科卒。高浜虚子に師事。

出典・・黛まどか著「あなたへの一句」。

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曇りなき 子の日の影に うち出づる 野辺に心も
揺らく空かな
                  荒木田守武

(くもりなき ねのひのかげに うちいずる のべに
 こころも ゆらくそらかな)

意味・・曇りなく陽の射す初子(はつね)の日、野辺に
    出て見ると心もゆったりとし、命も延びるよ
    うな気のする空が広がっているとだ。
  
    気持ちの良い初春の野に出た浮き浮きとした
    気分であり現代のピクニック気分が詠まれて
    います。

 注・・子の日=正月の初子の日。ね「子」は十二支
     の一番目で鼠。その日に不老長寿を願って
     野に出て小松を引き、若菜を摘む行事が行
     われる。
    子の日の影=子の日に射す日光。
    曇りなき=晴れ渡っている事と、御代(天皇
     のご治世)が正しく行われている事を暗示。
    うち出づる=「うち」は接頭語であるが、広
     々とした所へ出る感じがある。
    揺らく=玉が触れ合ってゆらゆらとさやかな
     音をたてる意だが、ゆったりとしたという
     気分や命が延びそうだという気分を表して
     いる。

作者・・荒木田守武=あらきだもりたけ。1473~15
    49。伊勢神宮宮内神官。連歌を宗祇に師事。

出典・・笠間書院「室町和歌への招待」。

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賤の男が 堅き山田の 一返し 力入れんと
休む鋤の柄
               桜井基佐

(しずのおが かたきやまだの ひとかえし ちから
 いれんと やすむすきのえ)

意味・・賤しい男が山田に一鋤入れて掘り返し、再び
    鋤に力を入れようと鋤の柄に身体を預けて休
    んでいることだ。

    農作業の厳しさに耐えるように、無い力を振
    り絞るために、一時鋤に寄り掛かっている貧
    しい男を描いていますが、農作の時期を迎え
    た春の喜びも感じられます。

 注・・賤し男=みすぼらしい着物をまとった、やせ
     細った者。
    山田=山を切り開いて作った田。山間の田。

作者・・桜井基佐=さくらいもとすけ。1509頃没。
    連歌師。

出典・・笠間書院「室町和歌への招待」。

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