名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年12月


寂しさは その色としも なかりけり 槙立つ山の
秋の夕暮れ     
                  寂連法師
            
(さびしさは そのいろとしも なかりけり まきたつ
 やまの あきのゆうぐれ)

意味・・この寂しさはとりたてて特にどの色からという
    事ではないのだが、山全体から寂しさが漂うよ。
    杉や檜の茂る秋の夕暮れは。

    一見、秋らしくない常緑樹の山のいい難い寂し
    さを巧みに詠んだ歌です。

    三夕(さんせき)の歌の一つです。

 注・・しも=上接する語を強調する。よりによって。
    槙(まき)=杉や檜など常緑樹の総称。

作者・・寂連法師=じゃくれんほうし。1202没。60余
    歳。新古今集の撰者の一人。

出典・・新古今和歌集・361。

感想・・寂しさには色々あるものだと思いました。
    体力の衰えの寂しさ
    人に相手にされない寂しさ
    人に認められない寂しさ
    恋人のいない寂しさ
    実力のない寂しさ
    親しい人との別れの寂しさ
    子供のいない寂しさ
    シヤッター通りの寂しさ
    ・・・・・・・・
 
    この歌の場合、寂しさは
    森閑として誰もいなくなった寂しさや
    心地よい秋が過ぎ去ろうとする寂しさ
    だと思います。
    深刻な寂しさや侘しさではなく、この歌程度の
    寂しさであって欲しいものです。
 


いざ行かむ 行きてまだ見ぬ 山を見む このさびしさに
君は耐ふるや
                   若山牧水

(いざゆかん ゆきてまだみぬ やまをみん この
 さびしさに きみはたうるや)

意味・・さびしい、実に寂しい。さあ出かけましょう。
    どこか初めての土地に出かけ、まだ見たこと
    のない山の姿にでも接したらこの寂しさから
    脱けられそうな気がするけれど、恋人よ、あ
    なたはこんな寂しさにいつまでも耐えられま
    すか。私はもうこの寂しさの中にじっと辛抱
    してはいられません。

    この歌は恋人を誘うような形をとってはいる
    が、真剣に誘いかけているというよりは、そ
    ういう形を借りて作者自身の寂しさを語って
    います。

    この歌の寂しさとはどういうものであろうか。
    努力を人に認められるまでに行かない寂しさ、
    別れの寂しさ、孤独の寂しさ・・。

    参考です。

    「山のあなた」
            カール・ブッセ、上田敏訳

     山のあなたの空遠く
     幸ひ住むと人のいふ
     ああ、われ人と尋(と)め行きて
     涙さしぐみ帰り来ぬ
     山のあなたの尚遠く
     幸ひ住むと人のいふ

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。

出典・・歌集「別離」(大悟法利雄著「若山牧水の秀歌」)
 
感想・・山のあなたの空遠くへ行っても幸いは得られない。
    寂しさは無くならない。ならば自分の身近で探す
    ほかない。
 
    人に評価されない寂しさ、
    自分の意見が通らない寂しさ、
    人に相手にされない寂しさ、
    恋人のいない寂しさ、
    ・・・・・・
 
    じっとしていても寂しさは無くならない。
    山のあなたの空遠くへ行って見ると、
    この寂しさが緩和されるかもしれない。
    山のあなたの尚遠く幸い住むと人のいう。
 


月をこそ ながめなれしか 星の夜の 深きあはれを
こよひ知りぬる
                建礼門院右京大夫

(つきをこそ ながめなれしか ほしのよの ふかき
 あわれを こよいしりぬ)

意味・・いつも月ばかり眺め慣れていたのだが、星の
    夜の深い情趣を、今宵はじめて知ったことで
    ある。
   
    平清盛の娘建礼門院に仕えた作者は、平資盛
    (すけもり)と恋愛関係にあり、1185年に資盛
    は源平の戦いで戦死にあう。その翌年に詠んだ
    歌です。夜空を見上げると、薄青色に晴れて大
    きな星がきらきらと一面に輝いていた。まるで
    薄い藍色の紙に箔を散らしたように見え、こん
    な星空は初めて見たように思った、という詞書
    があります。月に比べれば、星の輝きは物の数
    ではない。満ち足りた月の美しさのような生活
    から転落した作者が、天空に広がって光り輝く
    星の美しさの世界を発見した歌です。

作者・・建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうきょ
    うのだいぶ。生没年未詳。1157年頃の生まれ。
    平清盛の娘の建礼門院の女房。

出典・・玉葉和歌集・2159。
 
感想・・建礼門院右京大夫は平家の一門として優雅な生
    活を送っていましたが、源平の戦いで平家が敗
    れると、一転落ちぶれた姿になりました。
    その結果、月を強者、星を弱者とすれば弱者の
    立場が解ったということです。弱者をいたわっ
    て欲しい、いたわらなくてはという気持ちの歌
    だと思います。
 
    自分の身の回りを眺めて見ると、月のように照
    り輝く人もいれば、星のようにささやかに光っ
    いる人もいます。このような人に対して無視す
    るのでは無く、いたわりの目で見たいと思いま
    す。


物ごとに 秋ぞかなしき もみじつつ 移ろひゆくを
かぎりと思へば           
                  読人知らず

(ものごとに あきぞかなしき もみじつつ うつろい
 ゆくを かぎりとおもえば)

意味・・何事につけても秋は悲しい思いをさせる季節で
    ある。草木が色づきながら盛りの時をむかえ、
    それがさらに色が変わってゆく様子を見ると、
    これで終りであると思われるから。
 
    木々が色あざやかな紅葉を見せながら、だんだ
    んと色あせ、やがて散ってゆく。すべて終りの
    時というものは物悲しい。人も例外ではない。
    
 注・・もみぢつつ=紅葉しながら。
    移ろひゆく=しだいに色あせ、そして散っていく。
    かぎり=限界、臨終。
 
出典・・古今和歌集・187。
 
感想・・秋は悲しい。それは紅葉が燃えて最高の時を向え
    たら、後は散って行くだけだから。それは人生に
    も例えられる。
    私も高齢化社会の一員として体力の衰えを自覚し
    出した。そして人生の秋を感じさせられ寂しく思
    います。
    でも、紅葉した葉が散った後にはしっかりと芽が
    付いており、来年を夢を見ています。

    葉が落ちた後の「芽」は人生に譬えたらなんだろ
    うか。子供や孫の成長の楽しみ?それとも、第一
    線を退いた後に出来た自由な時間だろうか。
 
    この自由な時間について反省したら、有効に使っ
    ているだろうか。私の場合は暇つぶしに費やして
    いるように思える。もったいない事だ。
    この時間を少し割いて図書館に行って使ったらど
    うであろうか。そして面白い本、楽しい本に出会
    えたなら、まだまだ夢を追う事が出来るかも知れ
    ない。
 


かたはらに 秋ぐさの花 かたるらく ほろびしものは
なつかしきかな     
                  若山牧水

(かたわらに あきぐさのはな かたるらく ほろびし
 ものは なつかしきかな)

詞書・・小諸懐古園にて

意味・・廃墟となった小諸城址に、むなしく座っている
    と、かたわらで秋草の花が語ることに「亡んだ
    ものを想うとしみじみしますね。」。

    牧水が恋愛にも生活にも疲れ果て、小諸の地に
    静養している時に詠んだ歌です。

    悠久(ゆうきゅう)な自然の中に滅び去ったもの
    を思い、懐かしく思う気持を詠んだ歌です。
    「荒城の月」を口すさびながら。

    春高楼の花の宴
    巡る盃 かげさして
    千代の松が枝 わけ出でし
    昔の光 いまいずこ

    島崎藤村の詩「千曲川旅情の歌」、参考です。

     「千曲川旅情の歌 」   島 崎  藤 村

     昨日またかくてありけり
     今日もまたかくてありなむ
     この命なにを齷齪(あくせく)
     明日をのみ思ひわづらふ

     いくたびか榮枯の夢の
     消え殘る谷に下りて
     河波のいざよふ見れば
     砂まじり水巻き歸る

     嗚呼古城なにをか語り
     岸の波なにをか答ふ
     過(いに)し世を靜かに思へ
     百年(もゝとせ)もきのふのごとし
 

    古城のほとりで、藤村も牧水も哀しむ。
    過(いに)し世を思えば春高楼の花の
    宴も、栄枯盛衰も消え失せて、百年も
    昨日の如しと。
    あくせく明日を思い患っても、月日は
    なにもかも「ほろぼし」去って行く。
        ほろびしものは懐かしきかな。
 
 注・・かたはらに=作者が座って瞑想にふけっている
     近くでの意。
    かたるらく=語ることには。
    なつかしき=過去の記憶に心ひかれしたわしい。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    43歳。早稲田大学卒業。歌集に「路上」、「
    海の声」など。

出典・・歌集「路上」。

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