名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年10月


うきままに いとひし身こそ をしまるれ あればぞ見ける
秋のよの月        
                    藤原隆成

(うきままに いといしみこそ おしまるれ あればぞ
 みける あきのよのつき)

意味・・つらいという思いにまかせて、生きている
    事を厭(いと)うた我が身であったが、今は
    その身こそいとおしく思われてくる事だ。
    生きておればこそ、この美しい秋の夜の月
    を見られたのだ。

 注・・うきままに=辛い思いにまかせて
    いとひし身=いやになった我が身。
    をしまる=惜まる、大切に思う。
    あればぞ=生きていればこそ。

作者・・藤原隆成=ふじわらのたかなり。生没年未
    詳。

出典・・後拾遺和歌集・263。

感想・・私は同じ会社に40年間勤めて定年退職しま
    した。その間、何度も会社を辞めようかと
    思った事がありました。
    仕事が変わったり、上司が変わったりして、
    辛い思いも、会社を辞めるという思いも、
    いつしか消えていました。だがいつしか又
    会社を辞めたいという思いが芽生えて来た
    ものです。
    辛い事ばかりでなく、仕事が面白くてたま
    らないという時期もありました。この時は
    あの時短気を起こして会社を辞めなくて良
    かったと思ったものです。

    辛い時でも辛抱していれば、いつかは嬉し
    い事もやって来るものだと思いました。


思ふこと なくて見まほし ほのぼのと 有り明けの月の
志賀の浦波       
                    藤原師賢

(おもうこと なくてみまほし ほのぼのと ありあけの
 つきの しがのうらなみ)

意味・・何の物思いもなく見たいものだ。ほのぼのと明けて
    ゆく有明の月の下、寄せては返す志賀の浦波のこの
    美しい光景を。

    1331年後醍醐天皇は北条氏討伐を企てたが、計画が
    漏れて奈良に退散した。近臣の師賢が僧兵を味方に
    つけようとしたが失敗。その帰り路で詠んだ歌です。

作者・・藤原師賢=ふじわらのもろかた。1301~1332。32
    歳。後醍醐天皇に重要される。正二位大納言。
 
出典・・新葉和歌集。

感想・・物思いで悩んでいる時は、楽しい事も半減するもの
    です。この悩みを早く解決出来たらよいが、解決が
    出来ないから悩むのです。
    悩み事があると仕事にも力が入らない。ではどうし
    たらよいのか。
    私の場合は、悩みを一旦横に置いて、一切その事を
    考えず、当面の事を進めています。
    当面の事が済めばまた悩み事の対策を考えています。


今日もうし 昨日もつらし 飛鳥川 身のいたづらに
月もかぞへて     
                 藤原家隆

(きょうもうし きのうもつらし あすかがわ みの
いたずらに つきもかぞえて)

意味・・今日も憂い。昨日も辛かった。明日はどうで
    あろうか。なすこともなく飛鳥川のように早
    く流れる月日を数えつつわが身は老いてく。

    本歌は「昨日といひ今日とくらして飛鳥川
    流れてはやき月日なりけり」です。
                (意味は下記参照)
 
 注・・いたづらに=むなしくも、無為に。

作者・・藤原家隆=1158~1237。後鳥羽院の信任が
    厚かった。

 出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。

本歌です。
昨日といひ 今日と暮らして あすか川 流れてはやき
月日なりけり        
                   春道列樹

(きのうといい けふとくらして あすかがわ ながれて
はやき つきひなりけり)

意味・・昨日といっては暮らし、今日といって暮らして、
    また明日になる。飛鳥川の流れのように早い月
    日の流れであることだ。

 注・・あすか川=「明日」と「飛鳥川」を掛ける。飛鳥
     川は奈良県飛鳥地方を流れ大和川に注ぐ川。川
     の流れが速い。
    はやき=「早き」と「速き」を掛ける。

作者・・春道列樹=はるみちつらき。生没年未詳。920年
    壱岐守。

出典・・古今和歌集・341。

感想・・憂えたり辛い思いで毎日を過ごして、満足な事も
    なく月日が流れてとうとう老いてしまった。
    こんな事では駄目なんだぞ、という歌だと思います。
    
    四苦八苦という言葉があります。これは憂いや辛い
    事を集めて分類した仏教の言葉です。
    四苦は生・老・病・死の事で、苦は苦しみではなく
    思い通りにならないという意味です。
    生苦とは自分の思い通りに生きていけない事です。
    八苦には
    愛別離苦・・愛する人と離別する。
    怨憎得苦(おんぞうえく)・・怨み憎む人と会うこと
    求不得苦(ごふとくく)・・求める物が得られない
    五蘊盛苦(ごうんじょうく)・・肉体や精神が思うよ
          にならない

    以上の八つの苦が人生に付きまとうものです。
    いつでも8種類の憂いや辛さがあるということです。
    この事を自覚していると気持ちが違います。
    仏教では知足の精神があります。足るを知る。すな
    わち、ある程度得られたらそれ以上に欲を出さない
    ということです。その結果、憂いや辛さの度合いが
    軽くなるという教えです。

    月日の流れは早いものです。日々何かをやり遂げた
    という満足感を味わって生きて行きたいものです。


わがせこが 解き洗ひ衣も 縫はなくに 荻の葉そよぎ
秋風の吹く
                   土岐筑波子 

(わがせこが ときあらいごろもも ぬわなくに おぎのは
 そよぎ あきかぜのふく)

意味・・夫の、解いて洗い直しをした袷(あわせ)の着物も
    まだ縫ってないのに、もう荻の葉がそよいで秋風
    が吹いている。

    夏は暑いので単衣(ひとえごろも)だから、春に着
    た袷は夏になると一度解いて洗い張りをし、縫い
    直して、また着ていた。夏の間に縫い直しをして
    おこうと思っていたが、もう荻の葉がそよぐ秋が
    やってきた。

    江戸時代の生活の一端をうかがい知る事が出来ま
    す。

 注・・袷(あわせ)=裏のついている着物。

作者・・土岐筑波子=ときつくばこ。生没年未詳、江戸中
    期の歌人。賀茂真渕に師事。

出典・・筑波子歌集。

感想・・気がつくと萩の葉を揺らして秋風が吹いている。
    もう、そんなに月日が経ってしまったのか...
    忙しく毎日をおくっている間に...
    嗚呼!
    まだ夫の袷の着物は洗い張りしたまま...
    たいへん、早く縫わなくちゃ!
    大切な夫に寒い思いはさせられない...

    これはブログ友の「猫の帯」さんの歌の解釈です。
    気になっているが忙しい毎日を送っている妻の
    気持ちが出ています。

    忙しいので優先順位をつけて仕事をこなして行か
    ねばならない。すると袷の着物を縫うのは後回し
    なって行く。
    現在のようにガス電気水道のない江戸時代です。
    ご飯を炊くにも竈(かまど)で炊いていた。
    そのためには薪が要る。山から木を取ってきて薪
    割りをして薪の準備が必要。稲刈りした米は殻が
    付いているので脱穀もして置かねばならない。
    米を砥(と)ぐ水が必要。水道がないので井戸水を
    汲んで来る。ご飯を炊くにしても、今からすると
    大変な時間がかかっていた。
    気になっていた袷の着物は切羽詰まって縫う事に
    なる。

    今から見ると哀れな生活に見えるが、当時はそれ
    が当たり前で結構幸せに暮らしていたと思う。
    生活のために夫婦とも一生懸命働いていた。

    今は、昔は数時間かけて行っていた所を車で何分
    もかからずに行ける。
    自由に出来る時間は昔と比べ大変多くなっている。
    この時間を有効に使っているだろうか。
    有効とは有意義にということだが一生懸命になる
    ことと思いたい。

このページのトップヘ