名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年05月

勅なれば 思ひな捨てそ 敷島の 道にものうき
心ありとも
                二条良基
          
(ちょくなれば おもいなすてそ しきしまの みちに
 ものうき こころありとも)

意味・・勅命であるので和歌の道を思い捨ててはいけない。
    たとえ和歌の道につらいことがあったとしても。

          物事を進めるのに大事なのは自発的な心である。
    でも自発心は嫌になれば止めてしまうものである。
    が、命令となれば続けざるを得ない。志に折れる
    気持ちになった時は、命令だと思って続ける事で
    ある。

 注・・勅=天皇が下す命令。
    な・・そ=禁止の意を表す。
    敷島の道=和歌の道、歌道。

作者・・二条良基=にじょうのよしもと。1320~1388。
    関白右大臣。南北朝期の歌人。

出典・・新続古今和歌集(小学館「中世和歌集」)


感想・・○○をやりたいと志を立てる。予定通り上手く
    行けばいいが、上手く行くと限らない。そんな
    時には挫(くじ)けたくなるものです。

    例えば私の場合、マラソンを完走したいと志を
    持っています。でも今はその為の練習が思うよ
    うに行かない。雨が降っている、暑い、寒い、
    疲れが残っている、息が切れる、どこどこが痛
    む・・と練習の邪魔になるものが多い。
    そして今日は止めた、となっている。

    ピンチはチャンスといいます。
    
    私が直面するピンチを、映画ならどうするか。
    言って見れば映画で一番おいしい所です。
    大変な所に直面する。そこを一生懸命にやり遂
    げる所にドラマは面白い。

    経営者の言葉に「金が欲しい時に金を追うな、
    人を追え」という発想の転換の言葉があります。
    人を追うというのは人を捕らえる事ではなく、
    人を喜ばす事です。そして人を集める、お客で
    も従業員でも。
    私の気持ちはマラソンの完走。でも上手く行か
    ない。
    今は「マラソンの完走を追うな、健康を追え」
    に切りかえている。健康であり体力があれば完
    走出切ると思っている。
    そして、マラソンの練習は走る事だけだと思わ
    なくなった。
    雨が降った時、疲れている時・・、それにあっ
    た運動をしている。
    映画の主人公ならどうするだろうか、と考えな
    がら。

思ふ人 ありとなけれど 故郷は しかすがにこそ
恋しかりけれ      
                能因法師

(おもうひと ありとなけれど ふるさとは しかすがに
 こそ こいしかりけれ)

詞書・・しかすがの渡し場で詠みました歌。

意味・・思う人がいるというわけでもないけれど、
    故郷はなんといってもやはり恋しく思われ
    ることだ。

 注・・しかすがに=然すがに。しかしながらやはり。
    しかすがの渡し場=愛知県宝飯郡豊川の渡場。

作者・・能因法師=のういんほうし。988~ 。中古
    三十六歌仙の一人。

出典・・後拾遺和歌集・517。

感想・・兎追いしかの山
    子鮒釣りしかの川
    夢は今もめぐりて
    忘れがたき故郷

    子供の頃に育った故郷は懐かしい。めだかや
    どじょうを捕まえて遊んだ頃が思い出される。

    思えば小学生の時もあり、中学生、高校生の
    時もあった。それなりの良い時代を思い浮か
    べると懐かしいものです。
    就職し、結婚して、子供を育てる、その時々
    は苦労して来たものであるが、現在の結果を
    見ると、全部いい思い出である。
    
    時を刻む砂時計がある。落ちて行く砂が積も
    って行く。時が積もって行くようだ。
    時が心に身体に積もって行く。
    いい思い出が、一日一日生きた思い出が積も
    って行く。
    砂時計のように、頑張った思い出が積もって
    いる。

    これからも、楽しい事も悩む事もあるが、後
    日、思い出せば、あの時は良く頑張ったと思
    うだろう。頑張ったと思えるように、今ある
    苦労に押しつぶされないように、生きて行き
    たいと思います。
    

憂き身とは なに嘆くらん かずならで ふるこそやすき
この世なりけり 
                   頓阿法師
              
(うきみとは なになげくらん かずならで ふるこそ
 やすき このよなりけり)

意味・・なんで憂い辛い身だと嘆くのか。取るに足りない
    身で過ごす方が、この世は気楽に送れるものなの
    に。

    憂き身を慰めた歌です。
    実力以上の事を得ようと望めば、それなりの憂い
    を感じる。欲を、実力がない身分だと思って控え
    目にすれば、辛さも半減し気楽な人生が送れる。

 注・・憂き身=悲しい身の上、辛い事の多い身。
    かずならで=数える価値がない、取るに足りない。
    ふる=経る。月日を送る、過ごす。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。俗名は
    二階堂貞宗。和歌四天王と称された。

出典・・頓阿法師詠(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)


感想・・人が嫌がる職場に3K職場があります。汚い・き
    つい・危険な職場です。給料が少ない、休暇が取
    れない、帰れない(長時間労働)が加わると、人は
    こんな職をいよいよ敬遠することになります。
    現にこんな職場がありそこで働く人も多くいます。

    上記の歌で「かずならで」、数える価値が無い人・ 
    取るに足りない人、いわゆる最低の人が3K5K職
    場で働く事が多いと思われます。

    「数ならで」の人は賞賛されなくても、報酬が少
    なくても当たり前、仕方がないと諦めがつく。
    汚い、きつい、危険な仕事に就いても我慢が出来
    る。でも、気楽ではなく辛い思いは人一倍、と思
    います。
    それなのに、頓阿法師は「取るに足りない身で過
    ごす方が、この世は気楽に送れる」といっている。

    何かで自分が辛い思いをした場合、「数ならぬ人」
    すなわち自分より下の者と比較して見る。気持を
    最低の者になったつもりで、その辛さを考えて見る。
    そして今の辛さを比較して見る。そうすれば今の辛
    さも軽減され、我慢が出来るのではなかろうかと思
    います。それにしても大変な努力が要るものですね。
    

朝霧に 濡れにし衣 干さずして 独りや君が
山路越ゆらん          
                詠人しらず

(あさぎりに ぬれにしころも ほさずして ひとりや
 きみが やまじこゆらん)

意味・・朝霧に濡れてしまった衣を干さないままで、
    今頃一人、あなたは山路を越えておられる
    のでしょうか。

    朝霧に衣が濡れたまま、一人、山路を行く
    人のわびしい姿、目的地に急ぐ姿が目に浮
    かびます。

出典・・新古今和歌集・902。

感想・・どうぞご無事で...と、祈るような詠み人の
    想いは、 一人目的地に急ぐ人の心の支えに
    なっている...

    この歌は、伊勢物語のひたすら夫の旅が無
    事であるように祈る歌が思い出されます。 
    
   「風吹けば沖つ白波たった山 夜はにや君が
    ひとり越ゆらむ」
    あの寂しい立田山を、あの方はこの夜更け
    にたった一人で越えていることでしょうか。

    この歌は結婚して数年後、生活が厳しくな
    ったので、夫が隣の町に行商に行く時の状
    態を思って歌っています。
    ところが夫は愛人が出来て隣の町まで通っ
    ていたのです。
    夫は妻がこのように歌を詠み美しく化粧を
    して待っている事を知ります。そして夫は
    愛人の所に通わなくなったという物語です。

    結婚すると相手の良い面と悪い面が見えて
    きます。
    良い面は当然という気持ちがあり、悪い面
    が目立つと嫌気がさして来ます
    ふらふらと浮気をしたくなる。

    相手の悪い所はいくらでも見付け出す事が
    出来ます。相手の良い面は、当然という思
    いがあるので、見つけ出せない。
    悪い面は勘違いであったり、感情的になっ
    ている時に思う事が多い。
    人はいい所もあるが悪い所もある。それが
    当たり前なんだと認識していなければなら
    ない。
    そして、相手の良い面は当然と思わず、良
    い面だと再認識することの大切さを思いま
    す。

験なき ものを思はずは 一杯の 濁れる酒を 
飲むべくあるらし 
                大伴旅人

(しるしなき ものをおもわずは ひとつきの にごれる
 さけを のむべくあるらし)

意味・・くよくよしてもはじまらない。物思いなどにふけ
    るよりは、いっそのこと濁り酒の一杯でも飲む方
    がよさそうだ。

    酒を讃(たた)えた歌であるが、当時作者は妻を亡
    くし悲嘆と失望にあったので、それを紛らそうと
    して詠んだ歌です。

 注・・験(しるし)なき=かいがない。効果がない。
    思はずは=思わないで。
    濁れる酒=濁り酒、糟を漉(こ)していない酒。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~731。太宰
     帥(そち)として下向、そこで妻を亡くす。大
     納言となり上京、従二位。

出典・・万葉集・338。


感想・・お酒の効用。お酒を飲むと元気が出て怖い物なし
    の気持ちになれるのがいい。人から笑われるとか
    恥ずかしいという気持ちが薄れる。「そんな事で
    くよくよしてどうする!」と人に言い聞かせる。
    酒の酔った勢いが気を大きくしてくれる。
    身内が亡くなり悲しい時も、酒に酔えば、過ぎ去
    った事だ、もう生き返る訳ではないと、諦めが早
    い。
    正気の時に、酒を飲んで酔った時のように、気が
    大きくなれれば幸だろうに、と思う。


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