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                八重葎


八重葎 しげる宿の さびしきに 人こそ見えね 
秋は来にけり   
                恵慶法師 
             
(やえむぐら しげるやどの さびしきに ひとこそみえね
 あきはきにけり)

意味・・幾重にも葎(むぐら)の生い茂る寂しいこの家に、
    人は誰も訪れて来ないが、秋だけはいつもと変わ
    らずにやって来た。

    詞書に「河原院にて、荒れた宿に秋の心を詠む」
    とあります。
    河原院は、源融(とおる)左大臣が建てた雅(みやび)
    やかで豪華な邸宅であったが、融の没後は荒れ果て
    てしまった。
    華やかな過去を思い出しながら、時の推移と共に現
    在の荒廃した姿の哀れさを詠んでいます。

 注・・八重葎=幾重にも茂った葎。「葎」はつる性の雑草
     の総称。「八重葎」は邸宅の荒廃ぶりを描写する
     場合に象徴的に用いられる表現。

作者・・恵慶法師=えぎょうほうし。生没年未詳。10世紀後
    半の人。

出典・・拾遺和歌集・140、百人一首・47。