名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

年ふれば あれのみまさる 宿の内に 心ながくも
すめる月かな       
                  善滋為政

(としふれば あれのみまさる やどのうちに こころ
 ながくも すめるつきかな)

意味・・年月を重ねたので、荒れることばかりがひどく
    なってしまっている家の中に、気長くも差し込
    んで、よく澄んで住みついる月だなあ。

    戦乱や病気などで大黒柱を失った屋敷は修理が
    ままならず、荒れ放題になってしまった。その
    結果月が差し込むような状態になり、さびれた
    家を悲しんで詠んでいます。
    
 注・・年ふれば=年月がたったので。
    宿=住居、家屋。宿の内は家の中。
    心ながく=気が長い。長く気持ちが変わらない。
    すめる=「澄める」と「住める」の掛詞。
 
作者・・善滋為政=よししげのためまさ。生没年未詳。
    従四位上・文章博士。

出典・・後拾遺和歌集・833

今は音を 忍びが岡の 時鳥 いつか雲井の 
よそに名告らむ
              安井仲平

(いまはねを しのびがおかの ほとどぎす いつか
 くもいの よそになのらん)

意味・・私は、忍びが岡に生まれたほとどきすだか、
    まだ声をひそめるような鳴き方しか出来ず、
    皆に笑われ耐え忍んでいるが、いつの時にか
    必ず、美しい声で大空に届くように鳴いてみ
    せよう。
    

    昌平学校に学んでいる仲平は顔に痘痕(あば
    た)があり器量が悪かったので同窓の者に馬鹿
    にされていた。それでこの歌を詠んで壁に貼
    って座右の銘としていた。

 注・・忍びが岡=「忍び」は固有名詞の忍ヶ岡と「
     耐え忍ぶ」の意と、また「声をひそめるよ
     うな鳴き声」の意の忍ぶを掛ける。
    雲井=雲のある所、空。
    よそに=余所に、かけ離れた所。
    昌平学校=ペリーの来航以来、徳川幕府の洋
     学の教育機関として設立された。その後、
     開成学校となり東京大学に発展した。

作者・・安井仲平=やすいちゅうべい。1799~1876。
    儒学者。天然痘にかかり顔面疱瘡痕で片目を
    失う。

さすたけの 君と語りて うま酒に あくまで酔へる 
春ぞ楽しき 
                 良寛

(さすたけの きみとかたりて うまさけに あくまで
 よえる はるぞたのしき)

意味・・親しいあなたと語り合って飲むこの美味い酒に
    満ち足りるまで飲んで酔った春の日はまことに
    楽しいことだ。

 注・・さすたけ=君の枕詞。
    うま酒=味のよい酒。
    あく=満ち足りる。

作者・・良寛=1758~1831。

出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集」。


うつせみの 世にも似たるか 花ざくら 咲くと見しまに 
かつ散りにけり              
                   詠み人知らず

(うつせみの よにもにたるか はなざくら さくとみしまに
 かつちりにけり)

意味・・はかなく崩れやすい人の世によくも似たものだ。
    咲いたかと思う間に、桜の花は片っ端から散っ
    てしまうものだ。

    仏教の無常観を詠んでいます。青年期、壮年期
    老齢期と人は留まらず変化し続けています。過
    ぎ去って振り返ると早いもの。まるで花が咲い
    たかと思ったら散ってしまうように。

 注・・うつせみ=世・命に掛る枕詞。現世のはか
     なさ。
    かつ=すぐに。次から次に
    無常=いつも変化していること。

出典・・古今和歌集・73。

0811


濁り江の すまむことこそ 難からめ いかでほのかに
影をだに見む
                  詠み人知らず

(にごりえの すまんことこそ かたからめ いかで
 ほのかに かげだにみん)

意味・・濁り江が澄まないように、あなたと一緒に住む
    ことは難しいでしょう。けれども、せめて水に
    映るあなたの仄(ほの)かな姿だけでも見ていた
    いのです。

 注・・濁り江=濁っている入り江。
    すまむ=「澄まむ」と「住まむ」を掛ける。
    ほのかに=仄かに。かすかに、ちょっとでも。

出典・・新古今和歌集・1053。

このページのトップヘ