名歌鑑賞のブログ

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

桜花 とく散りぬとも おもほえず 人の心ぞ 
風も吹きあへぬ          
                  紀貫之

(さくらばな とくちりぬとも おもほえず ひとの
 こころぞ かぜもふきあへぬ)

詞書・・「桜のように早く散るものはない」と、ある人
    が言ったのでそれに答えて詠んだ歌。

意味・・桜の花がそんなに早く散るのだとも思いません。
    人情の変わりやすいのは花の散ること以上で、
    それこそ風の吹き抜ける暇も待たずに心は変わ
    ってしまいます。

    恋心の変りやすさを詠んでいます。初めは良い
    面を見て好きになるが、悪い面が見え出すと心
    は変る。

 注・・おもほえず=思われない。
    心=気持ち、感情。
    あへぬ=出来ない。「あへぬ」が他の動詞の下
     につくと、その動作が終わりまで完了しない
     意となる。

作者・・紀貫之=きのつらゆき。868~945。従五位上・
    土佐守。古今和歌集の撰者。古今集の仮名序を
    著す。

出典・・古今和歌集・83。

感想・・人は長所ばかりの人はいない。また短所ばかり
    の人もいない。
    恋愛中は相手の短所は長所に隠れている。結婚
    すると長所に隠れていた短所が見えて来る。
    初めから人には短所があるものと認識していな
    いと、相手の短所が段々嫌になって来る。短所
    を見つけて嫌になりかけたら、相手の長所を探
    すことである。これは人間関係を良くする秘訣
    だと思う。
 

見ても知れ いづれこの世は 常ならむ 後れ先だつ
花も残らず           
                                            良寛

(みてもしれ いずれこのよは つねならん おくれ
 さきだつ はなものこらず)

意味・・見て理解しなさい。どのみちこの世という
    ものは、はかなく変わりやすいものだ。後
    に残る花も、やがては皆残らずに散ってし
    まうものである。

    人間も遅かれ早かれ死んでしまうものであ
    る。生きている間は自分の納得のいく生き
    方をしたいものだ。

 注・・いづれ=どのみち。
    常ならむ=常ではない、変わりやすい。

作者・・良寛=りょうかん。1758~ 1831。

出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集」。

感想・・花が散るように人も必ず死ぬものである。
    生きている間、楽しく充実した生活を送りたい
    ものである。
    しかし、世の中は辛い事が多いものだ。
    いじめられたり、病気になったり、不条理な事
    に出会う。そして「こんな事がなければどんな
    に幸せなんだろう」と思う。
    辛さを和らげる特効薬はなく、時が解決してく
    れるのを待つしかない。
    そして何時の日か、あの苦しみが懐かしく思う
    日がやって来る。それを楽しみに頑張って生きる。
    今は辛くとも希望を持って生きる事が、すなわち
    充実した生活になると思う。


盛りなる 花のよはひを おもふには 老いをや春の
友と見ざらん      
                  清岩正徹

(さかりなる はなのよわいを おもうには おいおを
 はるの ともとみざらん)

意味・・今を盛りに咲いている花の若々しい年齢を
    思うと、花は年老いた私を、春の友とはみ
    ないだろうなあ。

    躍動感のある春は、華麗な花を友とするが
    気力も希望も野心もなく、肉体的にも衰え
    ている私を友とみなさないだろうなあ、寂
    しいなあ。
    でも、花よりよい点は判断力があることだ。

 注・・花のよはひ=花の年齢、花の青春期。 

作者・・清岩正徹=きよいわしょうてつ。1381~
    1459。歌僧。

出典・・永享五年正徹詠草 (岩波書店「中世和歌集・
    室町篇」)

感想・・盛りなる花のように生きる、これをテーマー
    にした歌のように思います。
 
    躍動感のある春は躍動する物を友としたい。
    今、花は盛りとばかりに美しく華麗に咲いて
    いる。
    このような生き生きとした花を友にしたい。
 
    庭の柔らかい土に生えている花はいつも水を
    掛けてもらい元気よく花を咲かせます。
    環境の良い所だけでなく、舗装道路の割れ目
    に生えているタンポポも美しい黄色の花を咲
    かせています。
    春は環境の良し悪しではなく、力一杯美しく
    花を咲かすものは友とする。
 
    人も病気になったり、老いて足腰が立たなく
    なったりする。
    この悪環境に立たされたら挫けるのではなく、
    その立場で花を咲かせる。
    病気になったから、年老いて肉体が衰えたから、
    もう駄目と諦めるのではなく、花を咲かせる。
    生き生きとして生きる。
    どんな悪い環境でも幸せに生き生きと生きてい
    る人は多い。
     癌を宣告されても生き生きとして生きる、難し
    いテーマーですが。
    難病に頑張って幸せに生きている人は多くいます。
 

ももという 名もあるものを 時のまに 散る桜にも
思ひおとさじ        
                                            紫式部

(ももという なもあるものを ときのまに ちるさくら
 にも おもいおとさじ)

意味・・桃は百(もも)、百年にも通じる名を持っている
    ではないか。すぐに散る桜に劣るものか。

    桜ばかりがもてはやされるのはなぜだろうか。
    他に美しい花はいくらでもあるのに、他の花を
    歌人はめったに詠もうとしない。なぜ私たちは
    梅と桜ばかり褒めるのだろう。

      目立たなくて浮かばれない友人に、人にない良
    いところを持っているのにと、励まして詠んだ
    歌です。    

 注・・もも=「桃」と「百(もも)」を掛ける。
    時のま=時の間、少しの間。
    おとさじ=落とさじ、劣った扱いをしない。

作者・・紫式部=970~1016。「源氏物語」。

出典・・紫式部集。


感想・・欠点ばかりと思う人にも長所はあるもの。人の
    醍醐味は相手の思いがけない長所をどれだけ

    多く見つけられるかという事に尽きる。

色も香も おなじ昔に さくらめど 年ふる人ぞ 
あらたまりける           
                 紀友則

(いろもかも おなじむかしに さくらめど としふる
 ひとぞ あらたまりける)

意味・・色も香りも昔と同じように咲いているのだろうが、
    年を経てここにやって来た我々の方は、姿がこの
    ように変っている。

    桜の下で年を取ったことを嘆いて詠んだ歌です。

    中国の詩句 「年々歳々花は相似たり、歳々年々
    人は同じからず」と似ています。

 注・・らめ=直接に経験していない現在の事実について
       推量すること。作者は必ずしも毎年見に来
       ているものではない。
    年ふる=年を経る。
    あらたまり=姿が変ること。ここでは老人らしく
     なること。

作者・・紀友則=生没年未詳。904年大内記になる。古今
    集の撰者の一人。紀貫之は従兄弟。

出典・・古今和歌集・57。


感想・・年を重ねる事よりも、それに合わせて進歩・成長
    していない自分の姿に寂しさを感じています。
    進歩・成長するかどうかは日々の心がけ次第、頑
    張りましょう、と理解した方が味わいのある歌に
    なります。
 

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